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食い逃げは犯罪です!
さて、あなたは食い逃げをしたことがあるだろうか。私はない、…今のところは。
いつも鞄に入れっぱなしにしているものを何かの機会に鞄から取り出してそのまま入っていると勘違いして過ごすことは誰しもよくあることだろう。携帯電話、鍵、最近は携帯電話の充電器なんかもそうかもしれない。財布だってその一つだ。
家で家計簿をつける際に鞄から抜け出た財布は友人に呼ばれ日が落ちる前に帰る予定だった日に持ち合わせた普段使いの鞄の中に入ってはいなかった。たまたま終了時間が長引いて乗り込めなかった快速電車を待つ間、私は最寄のファミレスへと足を運んだ。土地勘のないその場で馴染んだチェーン店は時間を潰すには最適だったといえるだろう。お腹もすいた時間帯に食事をしたくなることも否めない。気付けば、私はメニューを開いてミックスグリル定食を注文していた。
事の重大さに気が付くのはもちろん食後。鞄の中を探してもお目当ての物は見つからない。きっと今頃、家の机で横たわっているのだろう。財布がないことを理解した私はまだ慌てることはなかった。手持ちのお金はないが、全財産を失ったわけではない。ATMでおろしてくればいい話だ。そのために必要なものは自分の身代わりになる身分証明書と銀行からおろすために必要な銀行カードだ。両方が財布の中にあることは発想した時点で分かった。
となると、別の方法を取るしかない。自分が動くのではなく、お金のほうから動いてもらおう。他者にお金を持ってきてもらうのだ。独身一人身の私には現時点で頼れる親族はいない。ここは友人に頼るのがベストだ。すぐさま、私は携帯電話を取り出し、先程まで話をしていた友人に電話をする。プルルルル、プルルルル。さっきまで聞いていたはずの友人の声がもう待ち遠しくて仕方なかった。期待に胸膨らませて声を待つ私の耳に届いたのは冷たく簡素な留守番電話サービスの録音音声だった。何度か掛け直しても結果は同じだった。掛けることを止めてからは友人に対する不安が意味もなく私の中に積もっていた。
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