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開かない。
開かない、というよりドアノブが動かないのである。
ついさっきまで何の障害もなく動かせていたドアノブが全く動かないのだ。
なぜ?と千代子が考える暇もなく、理人は
「そうそう、忘れていたよ」と、まるで千代子がドアを開けられないことを知っているかの如きタイミングで、千代子に聞いた。
千代子は意表をつかれ、「え?」と返してしまう。
その返答も意に介さずに、理人はこっちにこいというジェスチャーを千代子にした。
まだ何かあるのかと千代子はうんざりした様子で理人のところまで向かう。
すると、理人は一枚の紙を千代子に渡した。
なんだろうと思って見てみると、そこには、
「赤月 尚也」
「下田 リカ」
「天正寺 美月」
と3つの名前と、それぞれの写真が印刷されていた。写真に写っているのはだいたい高校1年生くらいの少年少女だった。
どれも千代子にとっては初めて見る名前と顔だった。
「あの、理人さん、これは?」
「その紙に載っている三人のことについて調べてほしいんだ。 千代子さんだけじゃなくて他のお手伝いさんを使ってもいいから、その三人の性格だったり家系だったり…そういったことを調べてほしいんだ。ちゃんとその分の給料は払っておくようにお父さんに伝えておくからさ」
そう言うと、理人はもう用はない、というかのように背を向け、読みかけの推理小説を再び読みはじめた。
ドアノブが急に動かなくなったり、見覚えのない少年少女の調査を命じられたりと、予想外の出来事が続き、もう訳が分からなかった。
この氷矢理人という少年の考えは全く読めない。
この家に3年ほど勤めている千代子でさえ、この少年のことをそこまで深く知らないのだ。
とにかく行動が読めない人なのである。
ふと時計を見ると、3時半を指していた。
その時刻を見た千代子の心の中には、とにかく寝たいという気持ちしかなかったため、
「分かりました。私はもう寝るので理人さんも早く寝てくださいねー」
といい、おぼつかない足取りで自分の寝室に向かったのだった。
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