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「いやー、美月ちゃんと一緒に学校行こうとしたら尚也の家の前を通って、そしたら家の電気ついてたから遅刻寸前かなと思って!」
「からかいにきたってことか…」
僕の返答にリカは「そのとおり!」というかのように満面の悪意に満ちた笑みを僕に向けた。
「さっきの尚也の食パン咥えてる顔もスマホでとったしね!ツイッターにでも貼っとこうかな」
「やめろやめろやめろ!そんなのネットに記録されたら人生終わるから!そのスマホこっちによこせ!」
「嫌だよ〜!なんで尚也なんかに!」
朝から始まったリカと僕の追いかけっこ。傍から見ればそれは幼稚園児のように見えたかもしれない。だが、当の本人である僕にとっては死活問題だ。これからの平和な学生生活を脅かすことにもなりかねない。
「待てー!リカ!早くあの写真消せー!」
「さっきも言ったでしょ!絶対消さないもんねー!」
全力で追いかけているが、全く追いつけない。
その要因としてはリカの運動能力にあった。
リカの家は地元でも有名な道場で、リカの父親がそこの師範をしている。
当然リカもそこで武術を習っており、なおかつ道場内ではかなり上の実力者であることを自慢気に話す本人から聞いたことがある。
つまり特に運動やトレーニングもしていない、どこにでもいる男子高校生には逆立ちしても勝てない相手なのだ。
おまけに今日の天気は曇りときている。
僕は生まれつき曇りや雨の日は体調が悪くなるという忌まわしい体質であるため、もともと大きい差はさらに大きくなっているのだ。
「はあ、はあ、だめだ…」
「もう息切れ?男子なのになっさけなー。んじゃ勝負は私の勝ちってことで!」
そう言ってリカはうなだれている僕を尻目に、スマホの画面に人差し指を近づける。
まずい…あれが投稿されたら…だが、そんな僕の思いとは裏腹に、リカは慣れた手付きでスマホのロックを解除し、ツイッターを開こうとしている。
「よっし開けた!投稿投稿…」
もうダメだ…そう思ったその時、リカではないもう一人の少女の声が聞こえた。
「あのー…お二人共、時間は大丈夫なんですか…?」
美月だった。時間…?時間…
「そうだ時間!リカ!今は何時何分だ?」
「えっと…あ!8時20分!ってええ!やばいよ美月ちゃん!なんで止めてくれなかったの!」
「リカさんと尚也さんが追いかけっこを始めたときから言ってたんですけど…ごめんなさい、聞こえませんでしたか?」
「いや、悪いのは美月ちゃんじゃないよ!そう、尚也が気づかないから悪い!」
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