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「いやリカも気づかなかっただろ!」
追いかけっこに必死になって気付かなかったのはどっちもどっち。
本来なら両成敗だが、リカは僕の方に責任を一方的に押し付けてきた。
これがいつもの日常の会話なら反論するところだが、あいにく今は学校に遅刻寸前という非日常の状況。
そんなことに構っている時間は全く無かった。
「どうしよう…このままじゃ3人仲良く遅刻しちゃうよ…」
リカが嘆く。
「あの…リカさん。あなたはご自宅から尚也さんの家までどうやって来ましたか?」
美月が落ちこんでいるリカに尋ねる。
「どうやってって、美月ちゃんの家の自家用車に乗せてもらって……ってそうだよ!美月ちゃんの自家用車に乗せてもらって学校まで行けばいいじゃん!」
先程と一転した快活な声に美月はコクリと頷く。
徒歩ならまだしも、車ならまだ間に合うかもしれない。
遅刻という絶望の中に微かな光が見えた。
ん?でも美月の家の自家用車ということは…
また嫌な予感がして家の外を見る。
そこには誰もがお金持ちの車として知る黒塗りのリムジンがあった。
「本当、いつ見ても凄いな。美月の家の車」
「お金持ちの集まるパーティー会場やお偉い方に会うわけでもなく、ただ学校に行くだけなんですけどね…」
僕の言葉を聞いた美月は苦笑しながらそう言った。
このリムジンを見て分かるとおり、美月はお嬢様。
そして、
なので先程彼女を「お嬢様然」と表現したのは間違いで、正真正銘本物のお嬢様なのである。
「何はともあれ早く乗せてってもらわないと!二人だけじゃなくて私も遅刻しちゃうからね!」
リカが僕たちにそう呼びかける。
「私たちも乗りましょう、尚也さん」
「そうだね、じゃあお願いします」
そう言って僕はリムジンに乗る。
全員が乗ったのを確認して、美月は運転手さんに命令した。
「運転手さん!道路交通法の範囲内で学校までフルスピードでお願いします!」
分かりましたお嬢様、と運転手さんは言い、アクセルを全開にして、学校までの道を走りはじめた。
朝の寝坊、高校生の追いかけっこ、そして朝の住宅街を猛スピードで走る黒塗りのリムジン。
これはどう考えても、平凡な朝ではないな……
そんなことを考えながら僕は見慣れた住宅街の景色を見ていた。
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