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2 転校生
朝の食パン女子高生騒動の後、僕とリカ、美月の3人は、遅刻ギリギリの時刻に学校に到着した。
僕たち3人が通っている高校は、私立日野台高校というところだ。
県内では多少有名な私立高校だが、特に特筆すべきものは無い。
普通の町である真条町を体現したかのような学校である。
僕とリカはともかく、美月はこの学校より、遥かに上のレベルの学校に行けるほどの学力があったが本人の人見知りな性格のため、幼なじみである僕たちと同じ学校に進学したのだ。
朝の読書を終えて、朝のホームルームの前の休み時間になったとき、リカと美月が話しかけてきた。
「本当にさっきの尚也の顔面白かった!食パン口にくわえるなんて『遅刻遅刻〜!』って言いながら通学路走ってる女子高生かっつーの!」
「もうやめてくれよ……一番見られたくなかったのに……特に二人には」
「てゆーかなんであんな時間まで寝てるわけ?高校生としての自覚が足りてないんじゃないの?」
ぐうの音も出ない…だが、落胆している僕をあざ笑うリカに美月は意外な一言を放った。
「でも……リカさんも私が家にお迎えに行かなかったら遅刻していたのではないですか?」
それを聞き、リカの顔は硬直した。
「なんでそう思うの?美月ちゃん」
震える声でリカは美月に尋ねる。
すると美月は淡々と自分の推理を語りだした。
「私がリカさんのお家を訪ねたとき、リカさんはパジャマ姿で出てきました。その時の時刻は7時50分頃。そしてリカさんのお家から学校までは40分ほどかかるので、朝ご飯などの時間を計算すると尚也さん同様遅刻するのではないか…そう思ったからです」
なるほど……ということは……
「結局リカも美月が来なかったら遅刻してたんじゃないか!」
図星だったらしく、リカは苦々しい顔を一瞬浮かべた。だが、ふと何かを思い出したように再び邪な笑みを向けてきた。
「確かにそうかもしれないけどさ〜、美月ちゃんが来なければ尚也も遅刻してたのは一緒でしょ?その美月ちゃんを尚也の家まで連れて行ったのは誰なのかな〜?」
「ゔっ……」
連れてきた、というのは多少語弊があるが、僕にしても美月がいなければ遅刻していたのは事実である。
というか、今朝の件に関しては僕もリカも寝坊したというただそれだけのことだと思うのだが…
そう思ったとき、この不毛な言い争いに終止符を打ってくれたのは美月だった。
「まあまあ、二人とも落ち着いてください。
結果的に間に合ったからいいじゃないですか」
美月の言葉を聞いた美月は、少し「う〜ん」と唸った後、
「そだね!次寝坊しなければいいだけだよね!」
と開き直った。
思えば昔からリカとは時々ちょっとしたケンカをすることがあったが、僕が謝ったことはあれど、リカが僕に謝ったことは無い。
大体の場合は今回のように開き直ることがほとんどである。
そのサバサバした性格は良い面も悪い面も当然あるのだが、それも含めて下田リカという人間だと思っているので、僕はこれ以上何も言わないようにした。
「そうそう、そんなことより二人に見せたい写真があったんだった!」
そう言ってリカは自分のカバンからスマホを取り出し、慣れた手付きでスマホの写真ファイルから僕たちに見せる写真を探した。
「これ!」
そう言ってリカは自慢気な顔で僕と美月に一枚の写真を見せてきた。
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