第1話

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家から最寄りの駅までは自転車。頬に感じる風はほのかにひんやりとしていて、秋の到来を感じさせる。雲ひとつない澄み渡った空を見上げて、小さく溜息をついた。 駅近くのいつもの駐輪場に自転車を止めて、駅のホームに向かう。 電車に乗り込み、椅子に座る。白いイヤホンをつけ、お気に入りのクラシックを流す。顔をあげると、顔見知りの人が立っている。同じ時間帯に同じ電車に乗るから、顔を覚えてしまった。だからといって所詮は他人。もう一度下を向いて目を閉じる。 電車を学校の最寄りの駅で降りて、コンビニで昼ごはんを買う。ポケットに手を突っ込んで、ゆっくりと歩く。 「おはよう。」 自分のクラスの2年4組に入って友人達に声をかける。 「おはよ!そうだ、架瑠!今日お前数学当たるぞ?」 「嘘だ!やってないし分かんない!誰か教えて!」 「仕方ねえなあ。これはこうで……。」 体育のあとの日本史は伏せて眠って、昼休みは友人達と対戦ゲーム。放課後になると音楽室に向かう。 「架瑠!遅いよ!」 「すみません、先輩!」 「もう!じゃあ出席確認します!」 所属する吹奏楽部で担当している打楽器の練習。個人練習をした後にパート練習、その後合奏。 部活が終わるのは7時過ぎ。その後急いで駅に向かい、7時半から家の最寄り駅近くにあるマンツーマンの塾に行く。 「こんな問題も解けないんですか?」 「……はい。分からないです。」 今日は苦手な数学。先生が大きな溜息をつく。 架瑠は下を向いて目を瞑り、溜息を飲み込んだ。 塾が終わるのは9時過ぎ。そこから自転車で家まで帰る。 家に着くと、9時半近く。 「ただいま。」 返事の帰ってこない家に向かって呟き、キッチンに向かう。机にはいつも通り1人分の冷えた食事が用意されている。手を洗った後制服のまま、いただきます、と食事に手を合わせて食べ始める。食べ終わると、食器を洗う。2階に上がって母親の部屋のドアを開ける。 「ただいま母さん。」
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