第1話

6/26
前へ
/100ページ
次へ
「ご、ごめんなさい…!我慢してください…!」 タオル越しに伝わってくる男の生暖かい血の温度、暗く静かな空間に聞こえる男の荒い息遣い。架瑠は震える右手を左手で押さえつけ、歯を食いしばった。 その時、少し遠くから怒鳴っているような声が聞こえた。耳を澄ますと、複数人の男が誰かを探しているようだ。 架瑠は先程のスマホを取り出して、着信履歴を開き、浅倉薫に電話をかけた。 「もしもし。」 「あの、すみません。もう近くにこられていますか?」 「いいえ?あと10分ほどかかります。」 「……え?」 「何かありましたか?」 少し焦ったように相手が聞く。 「えっと、まずこのスマホの持ち主の方、腹部の右側に怪我をしていて、とても血がでています。今、タオルで傷口を押さえています。」 相手が息を呑んだのが分かった。 「それで、先程から男性の方が複数人、誰かを探しているような雰囲気の声が聞こえて…」 「おい!どこだ藤堂(とうどう)!出てこいやぁ!」 すぐ近くで、男が叫んだ。慌てて後ろを向くと、公園の入口に男が1人立っている。こちらには気づいていないようだ。 「貴方の目の前で寝ているのが藤堂です。」 「え?」 先程の男の声は向こうにも聞こえていたようだった。架瑠は驚いたが、必死に声を呑み込む。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1107人が本棚に入れています
本棚に追加