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公園のちょうど真ん中、小さな車ほどある御影石の頂に、一匹のカラスが舞い降りた。
「少年よ、私の声が聞こえるか?」
御影石の影からひょっこりと顔を覗かせた健太は、まるで驚きもせず、空に映る黒い影をただ呆然と見つめてから口を開いた。
「カラスが話しているの?」
「ああ、そうだ。カラスの姿をしているが、実は私は悪魔なんだ」
健太は首を傾げながら、
「悪魔?」
「そうか、悪魔を知らないか。実際に目にするのは初めてのことだろう、無理もない。私は自分勝手に生きる人間は嫌いだが、子供には優しいのだ。覚えておくといい」
「ふうん」
御影石の影に戻ろうとする健太に慌てた悪魔はバサバサと羽をバタつかせながら、
「ちょっと待て! 少年よ、私はお前に願い事を一つ叶えてやろうと言うのだ」
健太はまたひょっこりと顔を出した。悪魔はキョロキョロと周りにハトがいないことを確認してから、取り乱した羽を嘴で整えながら、
「お前が望むことを何でも叶えてやる。どうだ、悪魔は本当は優しいのだぞ」
「悪魔さんが優しいのはわかったけど、僕、何もいらないよ」
「どうしてだ、なんでもいいのだぞ? お前も子供とはいえ欲深い人間なのだ。おもちゃ、お菓子、可愛いペットなんかどうだ。何か一つくらい欲しいものがあるだろう」
「本当に何もいらないよ」
小さな胸を目一杯張った健太を見て、悪魔は一つ首をかしげてからカアと一つ鳴き、
「わかったぞ。やっぱり金だ、金が欲しいのだろう。欲しい物は何でも手に入るからな。お前の親を喜ばせてしまうのは癪に障るがそれも仕方があるまい」
カラスの苦渋の表情に対し、健太はやはり悠然と、
「お金なんて欲しくないよ」
と言って、垂れた鼻水をすすった。これには悪魔も困り顔、失墜した人間の悪魔に対する評判を上げようとした行動であったはずなのに、まるで成果を上げられないのだ。これでは大悪魔様に怒られてしまうと泣き面の悪魔に、健太は救いの手を差し伸べた。
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