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「うーん、どうしてもって言うのなら……」  悪魔はパッと表情を明るくして、 「なんだ、何が欲しいのだ? やはり金か? 女か?」 「悪魔さん、戦争って知ってる?」 「戦争か、知っているぞ。欲深い人間どもの最たるものじゃないか」 「良かった。戦争って悪いことなんでしょ? その戦争っていうのを、この世からなくして欲しいんだ」 「戦争を?」 「うん。お父さんもお母さんもテレビを観て、『世界から戦争がなくなれば良いのに』っていつも言っているし、かわいそうな子供もいなくなるんでしょ?」  悪魔はうーんと考えてから、 「……残念だがそれはできない。私が叶えてあげられるのは、お前の人生に直接関わることだけなのだ」  悪魔は嘘をついた。世界から戦争をなくすことなど悪魔の力を持ってすれば赤子の首を捻るくらい容易なことであったのだが、そのようなことは悪魔界では決して許されるはずがなかったのだ。それではまるっきり天使の奴らが行う所業じゃないか。 「なぁんだ、じゃあやっぱりいらない」 「わわ、待て! お願いだからちょっと待ってくれ」  悪魔は羽を組んで大いに悩んだ。子供の願いを叶えてあげたい、だが悪魔界を追放されるようなことはできない。何か妙案はないものかと考えに考え抜いた結果、目を見開いてふぁさと羽を叩いた。 「よし、お前の望み通り、戦争をこの世からなくしてやろう。ただし効果は、お前が生きている間だけだ。それならば、お前の人生に関わること、として言い訳もできるからな」  悪魔は自分を納得させるかのようにうんうんと二つ頷いた。健太はそんなカラスの様子を見て微笑みながら、   「よく分からないけど、それでいいよ。お願いね、悪魔さん」  公園の入り口から健太を呼ぶ声がした。迎えに来た母親の元に駆け寄っていく健太の小さな背中に向けて、カラスは、カア、と一つ鳴いてから夕焼けの空に溶け込んだ。
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