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 悪魔と交わした約束が守られていることを、健太はリビングで歓喜する両親を見て知った。  国同士の対立、異人種間、差別、宗教と、戦争と呼ばれる争いが一つ一つなくなっていく度に両親は手を取り合い、平和で安全な世の中になった、と健太を抱きしめるのだ。健太は少しだけ誇らしげに、でもどこか訝しげに、喜びを分かち合った。悪魔が僕の願いを叶えてくれたのかな、悪魔って偉いんだね。でも、悪魔って一体誰なんだろうな。そんな疑問はどこ吹く風か、健太にとっては両親の笑顔が何より嬉しかった。  ある日、健太が公園のブランコに乗っていると、一人の男が健太に話しかけた。 「ねえ、坊や。もしかしてこの前この公園で、カラスとお話していなかったかい?」  健太が顔を上げると、カメラを首に下げた男が興味津々といった表情で健太を真っ直ぐに見つめていた。   「おじさん、誰?」 「おじさんは記者なんだ。坊や、健太君だろう? カラスとのお話、ちょっとだけでいいから教えてくれないかな」 「うーん……」  健太はカラスが羽を組んで悩んでいる姿を思い出して、子供らしい大きな素振りで腕を組んだ。そうしてほっこりと表情を緩めてから、 「願い事を叶えてくれるっていうから、僕、『この世から戦争をなくして欲しい』って言ったんだ」 「ほうほう、それで?」 「本当は駄目だって言われたんだけど、僕が生きている間だけなら戦争をなくしてくれるって約束してくれたんだ」  記者の男は目を輝かせた。 「そうか! それで世界中で繰り広げられていた戦争が次々と収束していったのか。凄いぞ、これは大スクープになるに違いない。いや、本当でも嘘でもどっちでもいい、大いに話題性のある内容だ」  記者の男はぶつぶつと独り言を呟きながら下品に笑った。健太は急に心細くなり、遠くに迎えに来た母親を見つけると、 「記者さん、じゃあね」  と言って、そそくさと記者の男の下を離れた。 「え、ちょっと、もう少し詳しく……」  と口にして、すぐに噤んだ。ネタとしては十分だ、少年の話の内容なんてこちらで勝手に肉付けしてやればいい。そんな風に考えたのだろう、記者の男はさらに下品に笑った。
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