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『カラスに平和を願う少年  某月、某日、某所にて、公園で遊んでいた少年の下に一羽のカラスが舞い降りた。そして少年に向かってこのように申し出た。 「願いごとを叶えてあげよう」  その問いに対し少年は、金銭欲、物欲、そんな個人的な欲などはかなぐり捨て、このように願ったのだ。 「世界から戦争をなくして欲しい」と。  戦争により消える命、戦争が巻き起こす貧困、そんな悲しみなんて世界からなくなってしまえば良いと、心優しい少年は願った。  少年の望み、それは友愛そのものだった。  その日以来、世界から一つ、また一つと戦争が消えていった。一体、あのカラスは何者だったのだろうか。神の使い、はたまた天使の人間界における仮の姿だったのだろうか。もしかしたら、少年自身が現代に舞い降りたメシア(救世主)なのかも知れない』  その記事は瞬く間に日本中に知れ渡った。世知辛い世の中に、このような美談はもってこいのスパイスだったのだ。記者の計らいにより、健太の名前や住む場所などの個人情報は完全に隠蔽されていた為、報道陣、野次馬、天使や悪魔を信仰するオカルトな宗教団体などが健太の家に押し寄せるようなことはなかったが、写真に写された大きな御影石により公園の場所は特定されてしまった。  それからというもの、休日にもなれば公園は沢山の人で大賑わい。公園に舞い降りたカラスをファインダーに収める者もいれば、カラスに私利私欲を願う欲深い人たち、それらを食いものにしようと観光客目当ての露天も並び、公園は連日お祭り騒ぎとなった。  健太も両親に連れられて賑わう公園に足を踏み入れたのだが、御影石を太陽に見立てて地面に落書きをするのが好きだった健太は、その場所を見つけることができず、そしてどこか落ち着かず、両親の手を引くようにしてすぐに公園を後にする始末であった。早く公園から人がいなくなって欲しいと心から願っていた。これ以上騒がれたくないという心情からか、それ以来健太は自分がカラスと話した張本人だということを誰にも、友達にも、両親にさえも話すことはなかった。
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