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 それから健太とアルチョムは、毎日のように公園の御影石の下で語り合った。学校、友達、食べ物、ゲーム、漫画。健太は悪魔との会話以外は何でも話し、アルチョムも言葉少なげにではあったが何でも返してくれた。  アルチョムはロシア人の父親と日本人の母親の間に生まれたハーフであったが、日本語は母親から習ったということで上手に使いこなしていたので、健太はアルチョムとコミュニケーションを取るのに一切の不便を感じずに済んでいた。両親の離婚後は父親に引き取られ、父親の生まれた国であるロシアで生活をしていたのだが、ちょうど日本で先のカラスブームが到来していた時期に、父親の仕事の都合で日本にやってきたのである。 「アルチョムのお父さんは何の仕事をしているの? まさか、記者さんじゃないよね?」 「違うよ。パパは普通のビジネスマンなんだけど、日本の会社と取り引きがあって、今は日本に住んでいた方が都合がいいんだって。だからパパの仕事が終わったら、またロシアに帰らなければならないんだ」 「そうなんだ……」 「もう慣れっこさ」  アルチョムのフッと両手を広げて微笑む外国人特有のジェスチャーに、健太はどこか寂しさを覚えていた。強がっているんだ。アルチョムの横顔が、鼻が高く彫りが深かったからではなく、自分と同じ子供らしいいじっぱりさを残している、そう感じたからである。  二人の関係は急速に近づいていった。ある日、健太がおやつに用意された饅頭をアルチョムに分け与えると、それを口にしたアルチョムは顔を歪ませ、お返しとばかりにアルチョムが母国のビーンズを健太に分け与えると、今度はそれを噛み砕いた健太の口が真一文字になって動かなくなったりもした。  似ているようでどこか違う、そんなくすぐったい感情を楽しむかのように、二人の関係は時として友達、或いは恋人、また或いは兄弟のように姿を変えた。いつしか健太にとってアルチョムは、唯一無二の存在となっていた。
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