2/2
528人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
―サイドB― 毎日ってわけじゃないんだ。 通学電車の中、ぺたりと張り付く手に体が固まった。 毎日ってわけじゃないんだけど、頻繁ではあるお馴染みの感触。 口を引き結び、気のせいだと思い込もうとしてたら、さわさわと手が動き出した。 持っていた鞄をぎゅっと抱き締めて俯いた。 誰か分かんない奴にケツ触られて、止めろって蹴り飛ばしたいのに出来ない。 怖くて体が動かなくなる。 そうこうしているうちに、むぎゅっとケツを揉まれて目をきつく閉じた。 むぎゅむぎゅ触られて、気持ち悪いし怖いしで、朝から最悪な気分で固まってると、最近視線を感じるんだ。 ハッとして目を開けて、顔を上げて視線を彷徨わせるとあいつが俺を見てる。 口角を上げて、また?って顔で俺を見てて、ちょっと安心する。 口をパクパク動かして助けを求める俺に、あいつは楽しそうに嫌だと返してくる。 ムカつくな。 睨みつけても無駄で、あいつは涼しい顔して俺を見ているだけ。 気を取られていたら、いきなり股間を掴まれビクリと固まった。 股間を触られたことはなかったから、信じられなかった。 あいつに視線を合わせたまま、自分が青ざめてくのを感じた。 その間にも痴漢の手が、縮こまっている俺のを掴んで揉み込んできた。 むぎゅむぎゅ揉む手に、鞄を掴む手に力が入る。 た す け て すがるように、あいつに向かって口を動かした。 不審そうな顔をしてから、身動きとれない車内なのに、あいつは強引に人を押し退けて俺の前まで来てくれた。 鞄から手を離して、そいつのブレザーを掴む。 とたんにぐいっと腰を抱き寄せられ、痴漢の手が離れた。 俺は目の前の体に額を押しつけた。 怖かった。 今までで一番怖かった。 電車がゆっくり低速していき、扉が開いた瞬間。外に向かう人波に合わせて、腰を抱かれたままホームに出た。 足の力が抜けて、カクリと膝を折った俺の耳に、舌打ちが聞こえてきた。 「重い、ちゃんと立て」 ムカつくな。 ガクガクする足に力を入れようとしたけど無理で、悔しくてそいつを睨みあげた。 「どうにかしろよ」 ブレザーを掴んだまま、強がりを言う俺にそいつは眉を跳ね上げた。 「へえ、おんぶでもされたいわけ?」 「されたくねー」 「なら歩けよ。いつまで抱き合ってりゃいいんだよ」 言われて、今の状態が抱き合ってるように見えるのに気がついた。 慌てて離れて、蹴りを出したら避けられた。 「力入ったじゃんか。行くぞ副会長」 先を歩いて改札に向かう、そいつの後を追う。 さっきまであんなに怖かったのに、今は苛々した気持ちでいっぱいだった。 「俺の前歩くな」 改札を抜けてくそいつに走りより、鞄を背中にぶつけてやった。 「いてーな、後ろついてくんなとか前歩くなとか、どうして欲しいわけ?」 言われてうっ、と言葉につまる。 呆れた顔をするそいつから、視線を逸らした。 「隣歩けばいいだろ」 ぼそぼそ言ったら、そいつは笑い出した。 「寂しがりか副会長。行くぞ」 学校までの道を一緒に歩きながら、口を尖らせた。 「電車の中でも、隣いろよ」 校門横で言ったら、そいつはニヤリと笑った。 「俺に痴漢されたいの?」 蹴りを出したらまた避けられた。 「ムカつくな」 「知らない奴よりマシだろ?明日隣にいてやるよ」 知らない奴より…マシなのか? 「…ちゃんと、隣に来いよな」 翌日、楽しそうにケツを触るそいつに口を引き結んだ。 なんか、何だろう。理不尽な気がするのは、気のせいか? そいつを睨みあげたら、ニヤリと笑われ耳に囁かれた。 「顔赤いぞ」 俯いて、鞄を抱き締めた。まぢでムカつくけど、知らない奴より…マシだよな。 ―サイドB―
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!