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―サイドB―
毎日ってわけじゃないんだ。
通学電車の中、ぺたりと張り付く手に体が固まった。
毎日ってわけじゃないんだけど、頻繁ではあるお馴染みの感触。
口を引き結び、気のせいだと思い込もうとしてたら、さわさわと手が動き出した。
持っていた鞄をぎゅっと抱き締めて俯いた。
誰か分かんない奴にケツ触られて、止めろって蹴り飛ばしたいのに出来ない。
怖くて体が動かなくなる。
そうこうしているうちに、むぎゅっとケツを揉まれて目をきつく閉じた。
むぎゅむぎゅ触られて、気持ち悪いし怖いしで、朝から最悪な気分で固まってると、最近視線を感じるんだ。
ハッとして目を開けて、顔を上げて視線を彷徨わせるとあいつが俺を見てる。
口角を上げて、また?って顔で俺を見てて、ちょっと安心する。
口をパクパク動かして助けを求める俺に、あいつは楽しそうに嫌だと返してくる。
ムカつくな。
睨みつけても無駄で、あいつは涼しい顔して俺を見ているだけ。
気を取られていたら、いきなり股間を掴まれビクリと固まった。
股間を触られたことはなかったから、信じられなかった。
あいつに視線を合わせたまま、自分が青ざめてくのを感じた。
その間にも痴漢の手が、縮こまっている俺のを掴んで揉み込んできた。
むぎゅむぎゅ揉む手に、鞄を掴む手に力が入る。
た す け て
すがるように、あいつに向かって口を動かした。
不審そうな顔をしてから、身動きとれない車内なのに、あいつは強引に人を押し退けて俺の前まで来てくれた。
鞄から手を離して、そいつのブレザーを掴む。
とたんにぐいっと腰を抱き寄せられ、痴漢の手が離れた。
俺は目の前の体に額を押しつけた。
怖かった。
今までで一番怖かった。
電車がゆっくり低速していき、扉が開いた瞬間。外に向かう人波に合わせて、腰を抱かれたままホームに出た。
足の力が抜けて、カクリと膝を折った俺の耳に、舌打ちが聞こえてきた。
「重い、ちゃんと立て」
ムカつくな。
ガクガクする足に力を入れようとしたけど無理で、悔しくてそいつを睨みあげた。
「どうにかしろよ」
ブレザーを掴んだまま、強がりを言う俺にそいつは眉を跳ね上げた。
「へえ、おんぶでもされたいわけ?」
「されたくねー」
「なら歩けよ。いつまで抱き合ってりゃいいんだよ」
言われて、今の状態が抱き合ってるように見えるのに気がついた。
慌てて離れて、蹴りを出したら避けられた。
「力入ったじゃんか。行くぞ副会長」
先を歩いて改札に向かう、そいつの後を追う。
さっきまであんなに怖かったのに、今は苛々した気持ちでいっぱいだった。
「俺の前歩くな」
改札を抜けてくそいつに走りより、鞄を背中にぶつけてやった。
「いてーな、後ろついてくんなとか前歩くなとか、どうして欲しいわけ?」
言われてうっ、と言葉につまる。
呆れた顔をするそいつから、視線を逸らした。
「隣歩けばいいだろ」
ぼそぼそ言ったら、そいつは笑い出した。
「寂しがりか副会長。行くぞ」
学校までの道を一緒に歩きながら、口を尖らせた。
「電車の中でも、隣いろよ」
校門横で言ったら、そいつはニヤリと笑った。
「俺に痴漢されたいの?」
蹴りを出したらまた避けられた。
「ムカつくな」
「知らない奴よりマシだろ?明日隣にいてやるよ」
知らない奴より…マシなのか?
「…ちゃんと、隣に来いよな」
翌日、楽しそうにケツを触るそいつに口を引き結んだ。
なんか、何だろう。理不尽な気がするのは、気のせいか?
そいつを睨みあげたら、ニヤリと笑われ耳に囁かれた。
「顔赤いぞ」
俯いて、鞄を抱き締めた。まぢでムカつくけど、知らない奴より…マシだよな。
―サイドB―
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