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1.名前の由来
私の名前の由来は花の名前。少し珍しい花らしい。あまり聞かない花だ。そして漢字はちょっと難しい。何でも姓名判断でいい画数の漢字を探したらこうなったのだそうだ。
――あんまりかわいくない名前
ずっとそう思ってきた。漢字の画数が多いので余計そう感じていたのだと思う。私は自分の名前をあまり気に入ってはいなかった。小学六年生になったある日、母にそのことを告げるとひどく悲し気な顔をしてこんな話をしてくれた。母の名前は少し男っぽい。そこで小さな頃から女の子らしい名前に憧れていたそうだ。だからあなたにはお花の名前をつけたのよ、そう言って悲し気に微笑む母を見て、私は自分の名前に文句を言ったことを後悔し慌てて謝った。
それからしばらくして友人と花言葉の話をしていると、先生がやって来て私の名前の由来となった花には、“純潔”とか“無垢”という意味があるのよ、と教えてくれた。当時まだ子供だった私には意味はよくわからなかったけれど、先生の口調からきっといい意味なのだということはわかり嬉しくなった。帰宅してそのことを母に話すと少し驚いたような表情のあとでにっこりと笑った。とても嬉しそうに。数日前に名前のことで文句を言ってしまって以来何となくそのことが気になっていた私はそれを見て、あぁよかったと胸を撫で下ろした。私はこのときの母の笑顔を今でも覚えている。
それから数年して母は突然亡くなった。末期癌だったらしい。父と、当時中学二年生だった私とは大いに悲しみしばらくは何も手につかなかった。数日してようやく、このままではいけないと父が遺品整理を始めた。最初私はそれをぼうっと見ていただけだったが父に促され母の使っていた小さな鏡台を片付けることにした。化粧品の瓶を取り出していくと母の香がしてまた涙が溢れてくる。
(あれ……?)
鏡台の引き出しの奥に何やら小さなノートのようなものが入れられていた。まるで隠すように。
(なんだろう?)
一番最初のページには日付だけが書いてある。十五年前の日付。それはちょうど私が生まれた年だ。日付が書いてあるということは日記だろうか。娘が生まれた記念に日記をつけ始めた、そんなところかもしれない。
私はページを捲った。
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