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教室の片隅で、静かに教科書を読んでいる。 二年の教科書は、全教科かなり読み込んでいるからつまらないけど、参考書を忘れてきたので仕方なく。 目にかかる前髪をうっとうしいと思いつつ、誰かと視線を合わせたくないからそのままにしている。 教室で、誰と関わるわけでもなく大人しく教科書を読む、俺の評価はない。 存在自体が希薄なのはわかってる。 あがり症、とまではいかないけど、自分がどもってしまうのはわかってるので、人と話したくない。 そんな俺の前に座っているのは、この学校ではそれなりの有名人。 背が高く、黒板を見るには非常に邪魔だけど、あまり黒板を見ない俺には好都合な生徒会長。教卓からこちらを見ても、きっと先生は俺に気づかない。 会長は面倒見がいい、優しい、かっこいい、と一般生徒からは評判がいい。 だけど俺は知っている。 会長が意地の悪いいじめっこで、副会長に痴漢してはニヤけてることを。俺は知っている。 何故なら俺は、これでも生徒会役員だから。 うちの学校は、会長だけ選挙で決める。あとの役員は、会長が指名する。 今回俺が生徒会役員、会計に指名された理由は、成績がトップだったから。 同じように書記で指名された岩本は、次席だった。 副会長だけは趣味で選んだんだと思う。 会長は入学式のとき、副会長が自分に惚れたと言っていた。 それは勘違いでは…と思ったが、最近の副会長を見ていたらあながち間違っていなかったのかなと…。 飽きてしまった教科書から、視線を窓の外へ向ける。 校庭で体育の授業を受けている生徒たち。その中に、染めた茶髪を見つける。 自分とは違う高い背、整った顔、明るい雰囲気…清太だ…。 かっこいい…なんて見惚れてしまう江藤清太は、俺の一個下の弟。 清太は本当にかっこいい。同じ親から生まれたとは思えないほど、俺とは真逆のタイプだ。 かっこよくて明るくて、少し軽いけど優しいいい子なのだ。 俺は自分が少し変わっているのを自覚している。清太はそんな俺をバカにしたりしないし、お願いを聞いてくれる。
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