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嗚咽を堪えて泣き、鼻水で呼吸がしにくくなったので身を起こした。 ティッシュを引っ張り出し鼻をかむ。 はあ…勉強しよ。唯一俺が自慢できるのって、学年首席なことくらいだし。 のそのそと勉強机に移動して、参考書の残りをやっつける。明日また新しいの買ってこよ。 そういえば、岩本も勉強すごいできるよな。いつも笑顔で優しくて、優等生だけど嫌味がない。 みんなに好かれてて、恋人もいて…いいなあ。 俺も笑顔でいれば、少しは変わるのかな。 翌日の朝、俺は部屋にある姿見を前に、ほっぺたをむにむにと揉んでみた。笑顔笑顔と表情筋に命令する。 邪魔な前髪はカチューシャであげているんだけど…うーむ。俺、パーツ的にはけっこういい線いってるんだけどなあ。昔は兄弟揃って天使みたいね、なんて近所のおばさんたちに言われてたし。 鏡の中、眉間へしわを寄せている自分をまじまじと凝視する。 …やっぱり目かな。陰気なのが滲み出ているのかもしれない。清太も前髪あげるなってよく言うし。 カチューシャを外し制服へ着替え階下に行く。洗顔をすませてキッチンに立ったら清太が降りてきた。 「おはよう清太、パン焼いちゃうよ」 「ああ、はよ。…てか早くね?なんで制服着てんの?」 首を傾げたまま頭をボリボリかいて不思議がってる清太に笑顔を向ける。 「裸族卒業に向けての第一歩だよ」 小さなことからこつこつと。 「なんだそれ。しばらくしたらストレスで倒れそうだけどな」 俺のやる気を削いで洗面所へ向かう清太に舌を出す。 そんな柔じゃありませーん、だ。 目標は清太が嫌がらない兄ちゃんだからな。達成するまでがんばるぞ。 スクランブルエッグとサラダをテーブルへ出し、先に食べ始めてしまう。 清太はけっこう時間ギリギリに家を出るから、朝の片付けは任せてる。 俺は朝ごはんが終わったらさっさと登校。 通学路を歩きながら、岩本の柔和な笑みを思い浮かべる。 笑顔笑顔。…いきなりへらへら笑ってたら気持ち悪いよな。 まずは会長と岩本相手に練習しよう。
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