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あきれたような清太の表情に、俺はうつむいて手を握りしめる。 今まで通りがいいに決まってる。家で服着るのなんか嫌だ。無理やり笑うのだって嫌だ。友だちだって必要ない。…岩本は好きだけど。 だけど今まで通りなんて続かない。 今だって清太は友だちと出かけたりして、俺のようにずっと家にはいない。家にいても友だちが来てたら俺は清太に会えない。 だいたい清太がひとりでいけるようになれって言ったんじゃないか。俺の面倒見るの嫌になったんだろ。変わらずにいたら、俺だけ置いて行かれちゃう。清太が結婚とかしたら、俺はどうしたらいいんだよ。 溜まったら清太に来てもらうなんて無理だ。だからひとりでいけるようになるんだ。清太に迷惑かけないようにするんだ。 うう、兄ちゃんそう思ってがんばってるのに、ひどいよ清太! 「清太が、清太が悪い!」 俺は立ち上がり、清太に詰め寄る。 「清太が悪いんだよ!俺が変態だからって、根暗で目つき悪いからって、俺のこと放って友だちとばかり一緒にいて!俺は清太いないと生きてけないのに、清太は俺なんかいなくても生きていけるなんてひどいよ!俺は今まで通りがいいのに、清太がひとりでいけるようになれって言ったんじゃんか!できないからアナニーがんばってるのに、清太の友だちとニアミスしても大丈夫なように変わろうって、普通に、せめて清太に嫌がられないよう、がんば、がんばってるのにぃー、清太の馬鹿ぁー」 ああ、もう。今日泣いてばかりだよ…。 「ちょ、待て。おい、おい兄貴、ほら泣くなって。あんま泣くと鼻つまるだろ?口で息しろよ?」 「うまぐできないがらー」 「ああもお!」 床に置いている箱ティッシュを取り、数枚抜いて鼻にあててくる清太にかぶりを振る。 「こら、ちゃんとかめって。嫌がんな。ほらチーンって、できるだろ?」 後頭を押さえられ、鼻をかむ。ああ、苦しかった。 「ありがど清太」 「まだつまってる。もう一度」 うう、清太優しい。清太可愛い。清太好き。 「落ち着いたか?」 うんうんとうなづき、肩を落とす。もうこのまま消えてしまいたい。清太に迷惑ばかりかけて、俺はやっぱり兄ちゃん失格なんだ。 悄然とする俺の頭に清太のため息が落ちてくる。それが悲しくてますます身体を縮みこませる。 「どうも、妙な誤解をされてる気がする。ちょっと兄貴、立てる?」 立てないので左右に顔を振る俺に、清太はまたため息を吐き出してから俺の前にしゃがみこんだ。 「俺は別に、兄貴のこと嫌いじゃないし、根暗だなんて思ってねーんだけど。まあ変態だとはちょこっとくらい思ってるけどさ」 清太の手が俺の頭を撫でる。声音が困惑をにじませている清太に、うつむいたまま口を尖らせる。 「前髪だって、兄貴が自力解決できるんなら切ったっていいんだよ。けど兄貴、俺の連れに絡まれても対応できないだろ?中一のとき毎日泣きながら帰ってきてたじゃん」 ん?中一? 「俺、泣きながら帰ってきた?」
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