夜中に、齋藤さんと一緒にお出かけ

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夜中に、齋藤さんと一緒にお出かけ

 私は正面にいる齋藤さんを見つめる。  まさか玄関前で出会うとは思ってもいなかった。齋藤さんもそう思っていたのだろう。目を丸くしている。 「こ、こんばんは、山本さん」 「こ、こんばんは、齋藤さん」  お互い、なんだかぎこちない挨拶をかわした。そして訪れる沈黙。うぅ、気まずい。私は必死に会話の糸口を探す。齋藤さんはカバンを背負っている。片手には紙袋を持っていて、その紙袋からは、いくつもの花が顔を覗かせていた。彼の仕事場、お花屋さんから持ち帰ったものかな。  オレンジやピンクなど、キレイな花の色に目が止まる。  何だか気持ちが躍る。  齋藤さん、この花を使って、フラワーアレンジメントを作ったりするのかな。  そう思うと、ちょっと好奇心が湧いてくる。作るとこ、見てみたいなぁ。 「山本さん?」 「はっ、はい!?」  不意に呼びかけられ、慌てて視線を齋藤さんの顔に戻した。  あれ? どうしたんだろ。何だか少し照れている?  「えっと、じーっとこっちを見て動かないままなので、ど、どうしたんだろ、と思って、あはは」 「えっ? あっ――」  そう言われて、急に恥ずかしくなる。  私は、一体何を考えてんの。 「あっ、ご、ごめんなさい! いや、あのね! えっと……、そ、そう! お、お花!」 「えっ? 花、ですか?」 「う、うん! その、齋藤さん、またキレイなお花をお持ち帰りしているなあって」 「あっ、ああ! これですね」  齋藤さんが片手に持っている紙袋を胸の高さに掲げた。私の視線の高さで、キレイな花々が小刻みに揺れる。 「仕事終わりに、またちょっとお願いしてもらいました」 「えっと、家でフラワーアレンジメントを作る練習用にですかね?」 「はい、そんなとこです」  彼が優しく微笑む。なんだかとても楽しそう。見ている私もそんな気分になる。彼のなかではきっと、どんな作品ができあがるのか、イメージできているんだろうなあ。そう思うと……、また気持ちがざわつく。だ、だめだめ。作るとこ見てみたいけど、そこはがまんしなきゃ。見たいって言えるわけがない。そんなの恥ずかしいし。 「山本さん」 「は、はい!」  私の驚いた返事に、齋藤さんがちょっと戸惑う。し、しまった! なんでビックリするのよ私は!?  齋藤さんが苦笑する。でもすぐに気さくな笑みを浮かべながら話しかけてくれた。 「その、山本さんは今からどこかにいくんですか?」  えっ? わ、私? どこに行くって……、あっ。  片手に持っている財布を見て思い出す。  そうだ、私、便箋を買いに行かなきゃ。齋藤さんにそう話そうとして、思いとどまる。何だか恥ずかしかった。だって買った便箋の行き着く先は、今目の前にいる彼のとこだから。 「ちょ、ちょっと買い物に」  私は少し早口で短く告げた。 「買い物、ですか? えっと、今って……」  齋藤さんがチラッと腕時計をみる。私もついつられて、スマホを取りだす。時刻は――、わわっ!? もう夜の8時半を過ぎていた。急がないと。 「えっと、齋藤さん、帰りに呼び止めてごめんなさい。じゃあ、私はこのへんで」 「えっ? あっ、はい」  齋藤さんの返事を聞いた後、私は階段を降りていく。 「あっ、や、山本さん!」 「いっ!? は、はい!」  階段を少し降りたところで、齋藤さんに急に呼び止められた。私は慌てて振り返る。  齋藤さんは、なんだか落ち着かない様子で話しかけてきた。 「そ、その、どこに出かけるんですかね?」 「えっ? えっと、その、ここから近くのコンビニです」 「そ、そうですか」 「はい」  その後、齋藤さんは口を閉じてしまった。 一体なんだろう? 少し気になりつつも、私は軽く頭を下げ、再び階段を降りていこうとした。  早く便箋を買って帰らないと。 「やっ、山本さん!!」  ひゃっ!? な、なに!?  齋藤さんのちょっと張りのある大きめの声。私はまた呼び止められた。ちょっと気持ちが焦る。もう! こっちは急ぎたいのに!  齋藤さんの方へ振り返る。 「えっ、えっとなんです?」 「あっ、いやその……」  齋藤さんは、何だか戸惑っているみたい。もう……、一体何なの?  私は思わず、怪訝な顔をする。 「す、すみません、何度も呼び止めてしまって。えっと、なんというか……」  齋藤さんは口ごもる。  うぅ~、もう! なに? 「あの、何もないのなら、私ちょっと急ぎたいというか……」 「そ、そうですよね! す、すみません」  齋藤さんが、申し訳なさそうな表情を浮かべる。うっ、なんだかちょっと罪悪感が……。ちょっと強く言い過ぎたかも……。で、でも、急ぎたいし。う、うん、ここは私もちょっと軽く謝ってから、行こう。 「えっと、齋藤さ――」 「山本さん!」 「ひゃっ!? は、はい!?」  齋藤さんに声をかけようとしたら、彼の勢いある声に打ち消された。私は、慌てて返事を返す。すると彼が、ちょっと緊張しながらも、真っ直ぐな瞳で私を見つめる。   私は思わず身構える。  い、一体なに?  彼が決心したかのように、口を開いた。 「僕も、一緒に行っていいですか!」 「――、えっ?」  突然のことに頭がおいつかなかった。  一緒に行く? 誰と? どこに? ……、!? わ、私と!? えっ!? な、なんで!?  「だ、だめですかね! いやその! だめなら全然いいです! 断って頂いても!」 「い、いえいえっ!? だ、だめじゃないですよ!? 全然大丈夫!!」  そう言ってしまって、はっとする。いやいやいや!? やっぱり一緒にいくのは困るじゃん!! だっ、だって私は! コンビニで、齋藤さんに渡すための便箋を買いに行くんだから! や、やっぱり断らないと! 「そうですか!! すみません! 勝手な事を言って!」 「いや、あの」 「すぐ荷物置いてくるんで、ちょっと待っていてくださいね!」 「ええっ!? さ、齋藤さ――」  時すでに遅し。齋藤さんは急いで自分の部屋に入っていった。  やばい! やばいよ!! どうしよう!? 私、便箋を買わなきゃいけないのに! これじゃあ、齋藤さんにバレるよね!? その、買った便箋を誰に渡すかっていうことがさ!?  顔が熱くなる。  ど、どうしよ!? どうしたら良いのおおおー!?  そんなことを考えていたら、すぐに出てきた齋藤さん。「お持たせしました」と小声で、ちょっと照れくさそうに言う彼。  もう、断れない。 「いえいえ……」私は小声で、ちょっとうつむき気味に呟く。どうか、顔が赤くなっていませんように……。  私は、彼と一緒に階段を降りていき、近くのコンビニへ向かった。
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