美容部員仲間とのガールズトーク、その1

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美容部員仲間とのガールズトーク、その1

「その男性、花束を持って百貨店に来たそうですよ」  仕事終わり。居酒屋の個室で、私と穂乃花(ほのか)さんは、美羽(みう)ちゃんの話に耳を傾けていた。 「意中の美容部員さんの前で、付き合って下さい!って言ったそうです」 「それはすごいな……」  私は思わず息を飲む。そのまま美羽ちゃんは話続ける。 「穏便にお断りしたみたいですけど、怒って花束を振り回したそうです。それで警備員に連行されて……。そしてフロアには、無残に散った花びらが、残されていったそうです……」  神妙な面持ちの美羽ちゃんに、穂乃花さんが励ますような、明るめの声をかける。 「そんな事は、ほら、ほんと稀よ。まあ、でも……、決まった曜日・時間に来て、こっちを見てるとか、週に1、2回のペースで百貨店に来る、って言う話は耳にしたことはあるわね」 「うわあ……」  美羽ちゃんがドン引きしている。穂乃花さんがしまったと苦笑する。 「そ、そういうのも稀なケースだから。そこの百貨店は運が悪かったわね」  落ち込んでいるみうちゃんの頭を、穂乃花さんが優しく撫でる。そんな2人に、私は少しおどけた口調で話す。 「私、この道6年目ですけど、そんな経験一度もないですけどね~」 「あのね、ないにこしたことはないの」  穂乃花さんに当たり前の忠告を受けてしまった。あはは、まあそりゃそうだよね。 「……そういえば、希望(のぞみ)。お隣さんが引っ越してきた、って言ってたわよね?」  穂乃花さんの話の切り替えに、私は続ける。 「あ~、そうなんですよ。新社会人みたいな若い男性で。そのですね、引っ越しのご挨拶の手紙をもらいました」  私はバッグから手紙を取り出し、穂乃花さんに手渡した。怪訝そうな顔で、その手紙を見ている。 「なんとも珍しいわね」 「そうですよね」  美羽ちゃんも手紙を覗き込む。 「うわあ……、これってもしかして、狙われているんじゃないですか?」 「狙われてる……? ……えっ!? わ、私が!?」 「他に誰がいるんですか……」  美羽ちゃんが呆れた顔で私を見る。ちょっと小バカにもしている感じだ。むむぅ~。  ちょっとむくれている私に、美羽ちゃんはそのまま話続ける。 「まさか、返事なんて書いたりして無いですよね?」 「ま、まさか。書いたりしてないよ……、普通はそうだよね?」 「普通はそうですよ! あった事無い人からそんな手紙もらうなんて恐すぎますよ!」  美羽ちゃんのもっともな意見だった。でも、郵便受けで会った彼は、そんな悪い感じはしなかった。だからなのか、つい口が滑った。 「いや、結構いい人っていうか。好青年って感じだったよ」 「「えっ?」」  美羽ちゃんと穂乃花さんが口をそろえて驚いた声を出す。そして、2人して私をジ―ッっと見ている。い、一体、なに? そんな事を思っていたら、美羽ちゃんが慌てて喋り出す。 「の、希望先輩、こ、この人! 齋藤さんに会ったんですか!?」 「えっ? う、うん。会っちゃったけど」 「ええっー!? 何してるんですか!? 何で手紙貰ってくらいで、会いに行ってるんですかー!!」 「わわっ!? み、美羽ちゃん!?」  美羽ちゃんに両肩を掴まれ揺らされる。わ、私、なんでこんなに怒られてるの!? 助けを求めるように穂乃花さんを見ると、呆れた様子で私に語りかける。 「まったく、まさか隣人の部屋に行くなんて。女性として警戒心なさすぎるわよ」  穂乃花さんの言葉を聞いて、やっと分かった。2人とも誤解している。私は、慌てて口を開く。 「ちょっと待って! 2人とも誤解です! 私、齋藤さんと会ったの、郵便受けのところで! 偶然、鉢合わせただけです!!」 「「え?」」  穂乃花さんと美羽ちゃんが、また同時に声を発した。そして、美羽ちゃんは、私を揺さぶるのを止めてくれた。た、助かった。私は、両肩にかかっている美羽ちゃんの両手をそっと掴んで降ろす。  美羽ちゃんがおもむろに口を開く。 「その……、手紙をくれた人。齋藤さんの部屋に行ったわけではないのですか?」 「う、うん。そうだよ。たまたま齋藤さんが、郵便受けにいて、そこでちょっと顔を合しただけ」  ぽかーんとしている美羽ちゃん。あ、あれ? 大丈夫? ちょっと心配していたら、勢いよく喋り出した。 「そうならそうと言って下さいよ! てっきり、齋藤さんの部屋にご挨拶にいったと思ったじゃないですか!」 「そ、そこまではしないよ! ご挨拶の手紙もらったからって!」 「ほんと、良かったです! 希望先輩が女子としての自覚があったことに! 三十路手前でも!」 「すごく失礼なこと言ってない!? 美羽ちゃん!!」  まだ私は、美羽ちゃんと同じ20代なのに! 違うのは、前半と後半という些細な違いだけ!  私と美羽ちゃんがぎゃあぎゃあ、騒いでいると、アラサーの出来る女こと、憧れの先輩でもある穂乃花さんがおもむろに口を開いた。
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