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私は、齋藤大翔(さいとうはると)さんから目が離せなかった。
両手には、花束がいっぱい入った紙袋を持っている。
(急にくるかも知れないわよ~)
脳裏に突然、穂乃花さんの言葉を思い出した、頭が冴えていく。
(花束を持って希望先輩の前に……)
美羽ちゃんの言葉も蘇る。鼓動が大きくなる。
ば、ばか! 何考えてんの、私は!? そんなことあるわけないでしょ!?
「ガサ」とまた音がした。齋藤さんが、階段をゆっくり降りてき始めた。緊張した表情で、私に近づいてくる。
告白。
う、うそ、でしょ? ま、まさか、今日話してた冗談が……、げ、現実に!?
(そして、告白を断る希望先輩。その事に怒り狂った齋藤さんは、手にしている花束を振り回して……)
美羽ちゃん……!?
(最後には、無残に散った花びらが辺り一面に……)
穂乃花さん……!
わ、私、どうしたら良いの……!?
「あの」
「ひっ!?」
齋藤さんが強ばった声で私に話しかけてきた。
思わず立ち上がった。そして彼から逃げるように階段を降りようとして―。
「あっ……」
気付いた時には、私は全身が浮遊感に包まれていた。
つまづいた右足のヒールが、私より先に階段下へ落ちていく。
手すりに伸ばした右手は空を切った。視界がゆっくり流れた時、何かが私の右手を力強く掴んだ。
えっ……?
下へ落ちる感覚とともに、前へも引き寄せられる不思議な感覚。
視線には、あっ、齋藤さん。
ぎゅっ。
無数の花びらが宙に舞うなか、私は彼に抱き抱えられてた。そして、そのまま重力に引き寄せられるように、階段下へと落ちていった。
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