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「みーさん、やはり起きていたわね」 姉はニタリと笑った。みーさん、とは私の愛称だ。 続けて、 「ここに手頃な鍋がある。しかし具がね、ないの。みーさん、どう思う?」 と、煮物用の大きい鍋をコンコン叩いた。 そうか、そのための大鍋か。温度計に気をとられ、分からなかった。 姉の目線の先には、丸まった猫。どっしりとベッドの中心を占領し、すやすやと熟睡している。 私は姉の意図に気づき、思わずふっ、とふきだす。 「どうする?」 姉はニタニタと口元を歪めた。 これは悪魔の囁きだ。猫好きなら、誰もが一度は間近でみたい、『ねこ鍋』。それをやろうというのだ。しかも通常より巨大な体をもつ、黒で。 もう一度いうけれど、黒は狂暴だ。メスとは思えないほど一撃が重く、大の男にだって飛びかかる。女王様のように扱わなかった、それだけでおキレなさるのだ。  おまけに、姉は黒の機嫌を損ねるのがうまい。普段から、もて余す欲求のままに、ちょっかいをかけるから。  この『ねこ鍋』なんて序の口。私の乳バンドが黒の腹巻きになっていたことは、記憶に新しい。  姉は暫く、黒に近付くだけで噛みつかれていた。 その経験をふまえて尚、寝込みを襲おうというのだ。確実に、黒の手酷い報復をうけるだろう。 しかし、人間とはかくも愚かな生き物である。予測がつくにもかかわらず、行動せずにはいられない。衝動が制御できない時があるのだ。 ―――私も黒で『ねこ鍋』をつくりたい。
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