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 力が爆発する。  全身の血液が一気にめぐる感覚だ。  頭の血管がいくつか切れたかもしれない。  そう思うほど、体がカッと熱くなった。  急激な体温の上昇で汗がふきだす。    自分でもなにがなんだかよく分からないが、私は黒を持ち上げれている。不思議な感覚。あんなに重い重いと(心の中で)わめいていたのに。  そこからは、(まばた)きの隙さえないほどあっという間の出来事で。  私が抱き上げた黒を、ドジョウすくいの要領で大鍋に収める姉。  つるりと鍋に滑り入ると、巨体がすっぽりとはまることにご満悦した黒。  ――――静寂(せいじゃく)だ。  三方とも、円満の静けさをみせた。  私はエベレストを登り終えた達成感を得ていた。  が、姉はそうじゃあないらしい。私の食品温度計を、国宝の巻物と同じくらい丁重に持ち出して、 「最後の仕上げね、みーさん」 と(ささ)やいた。  危ない、もう少しで忘れてしまうところだった。   「それは、私がやる」 だから渡せといわんばかりに、指さす。 「今回だけよ」 なにがだ。私の食品温度計だろう。なら私が最優先だ。  しぶる姉から食品温度計を奪い取り、まじまじと大鍋を見おろす。  まるで大量の海苔のつくだ煮だ。  よほど気に入ったのか、黒はニャンモナイトになって眠りだしていた。  その、前脚と後脚とが重なる中央。乳児の小指の先くらいの隙間に、私は食品温度計の先端をもぐりこませた。  するるるる。  温度がちみちみと上がっていく。  私のテンションもあがっていく。  獣の如しうなり声が響きわたるのはこの数十秒後で、  右手に大きな爪傷を受けるのは、さらに数秒先のことだった。  
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