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6
力が爆発する。
全身の血液が一気にめぐる感覚だ。
頭の血管がいくつか切れたかもしれない。
そう思うほど、体がカッと熱くなった。
急激な体温の上昇で汗がふきだす。
自分でもなにがなんだかよく分からないが、私は黒を持ち上げれている。不思議な感覚。あんなに重い重いと(心の中で)わめいていたのに。
そこからは、瞬きの隙さえないほどあっという間の出来事で。
私が抱き上げた黒を、ドジョウすくいの要領で大鍋に収める姉。
つるりと鍋に滑り入ると、巨体がすっぽりとはまることにご満悦した黒。
――――静寂だ。
三方とも、円満の静けさをみせた。
私はエベレストを登り終えた達成感を得ていた。
が、姉はそうじゃあないらしい。私の食品温度計を、国宝の巻物と同じくらい丁重に持ち出して、
「最後の仕上げね、みーさん」
と囁やいた。
危ない、もう少しで忘れてしまうところだった。
「それは、私がやる」
だから渡せといわんばかりに、指さす。
「今回だけよ」
なにがだ。私の食品温度計だろう。なら私が最優先だ。
しぶる姉から食品温度計を奪い取り、まじまじと大鍋を見おろす。
まるで大量の海苔のつくだ煮だ。
よほど気に入ったのか、黒はニャンモナイトになって眠りだしていた。
その、前脚と後脚とが重なる中央。乳児の小指の先くらいの隙間に、私は食品温度計の先端をもぐりこませた。
するるるる。
温度がちみちみと上がっていく。
私のテンションもあがっていく。
獣の如しうなり声が響きわたるのはこの数十秒後で、
右手に大きな爪傷を受けるのは、さらに数秒先のことだった。
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