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 まだ一段しか片していないのに、私はもう肩で息をしていた。  ――――――っ、殺せ――――――  いや駄目だ。今日はビーフシチューをとびきり煮込むと決めた。まだ生きる。  あと二段、たった二段じゃないか。そう自分をよしよしなぐさめて、まん中の段を勢いよくひっぱる。  今度はイカスミパスタみたいな、真っ黒の小物がうじゃうじゃいた。  いわゆる、ゴシックファッションアイテムだ。  うん、さっきよりはダメージが少ないぞ。  なにせゴシックにハマっていた当時は、街のいたるところで見かけたし。  あの時の私は若かった。ミーハーなノリで参加してたんだ。    そうこじつけて、ぽいぽいごみ袋にしまう。さっきとは違うごみ袋にだ。  これは売ればけっこうな金になる。再利用しよう。  アンティークも数点あって、それは残しておくことにした。  あとは売却(ばいきゃく)だ。と思ったが、手頃(てごろ)なリボンやアクセサリーも残しておくことにした。部屋にあるぬいぐるみにつけてあげたい。きっと見栄えする。  ラスト上段にとりかかる前に、私はビーフシチューの仕込みを始めた。  決戦に備えて腹ごしらえだ。
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