猫に小判

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猫に小判

あなたは「猫に小判」という言葉をご存知だろうか。 意味は、どんなに立派なものでも、価値のわからない人に与えてもなんの役にも立たない、 ということだ。 しかし、世の中にはもう一つ「猫に小判」という言葉が存在する。この物語は、そのもう一つの「猫に小判」の物語である。 僕は誠也(せいや)。 絶賛金欠の高校生だ。 僕の学校はバイト禁止で親から貰うお小遣いを頼りに一ヶ月間、金欲と戦っている。 友達に学校帰りにハンバーガーショップに誘われても、必ず行けるとは限らない。いや、むしろほとんど行けないくらいのお小遣いなのだ。 そんな僕でも、欲しいものをすぐに諦めるというのは難しい。だって、推しのアニメのグッズが発売されるとなったら、他の何かを削ってでも買うのがガチのアニオタだろ?そう、それが僕だ。僕は約一年前からとあるアニメにハマっている。そのアニメに出てくる推しがもう可愛くて仕方がないのだ。身近で見たい、その欲求に忠実な僕はお昼ご飯を美味しい学食から近所のパン屋さんの余ったパンの耳に変更したり、試験前対策ノートを作り、友達に転売するなどしてグッズ代をなんとか作っていた。 そんな策士の僕でも、まさかこんなピンチが訪れるとは思っていなかった。グッズの発売日の前日、なんとか揃えた三千円を確かに確認し、財布に大切にしまって学校へ向かった。そこで想定外のことが起きる。あ、ちなみに「急遽、パンの耳に値段がつくようになった!」などというすぐ脳内に浮かんでくるオチではない。もっとありえない難題だ。そう、財布を落としたのだ。「え?それ普通にあるパターンじゃね?」って思った方、正直に挙手。そうか、まあ見過ごしてくれ。すまん。 とにかく、財布を落としたのだ。しかしポケットに入れていた為、財布が落ちたのはすぐに気づいた。しかし落ちたところが悪かった。なんとよりによってゴミ捨て場に落ちたのだ。すぐに拾おうとしようにも、カラスのたまり場となっているあの場所には怖くて手も出せない。そして、そのカラス軍団の中のリーダー格(ちょっとぽっちゃり系)が口にくわえて飛び立ったのだ。もちろん僕は急いでそのカラスを追うが、なんせ飛べるカラスと飛べない人間。 勝負の結果は見えていた。あっという間に視界から消えたのだ。そして、絶望した。 あんなに頑張ったんだぞ。なんでそう簡単に人の頑張り奪うんだよ…。しかしいくら絶望しても財布は戻ってこない。僕は諦めて重い足取りで学校へ向かった。 この日はありえないくらい運が悪かった。 まず、いつも朝パンの耳を貰っているパン屋さんがあいていなかった。(後にその日は店長が二日酔いでグッタリしていて店をあけられる状態ではなかったということが分かった。) そして学校へ着いた時、いつもはいるはずのない生徒指導の先生が校門前で抜き打ち風紀検査をしていた。あー、そういや散髪代も削ったから髪切ってねえな、もちろん失格。朝からガミガミ怒られた。 そして極めつけは、昼休みに風紀検査に引っかかった罰として校舎裏の草むしりを命じられたのだ。これはなんの問題も無いように思えるが、そこにいたヤンキーがタバコを吸っているのを見てしまったのが問題だ。ヤンキーは教師にチクるなと言って脅してきたので、「絶対言いません!」と言って解決したかったのだが、僕の顔が信頼できる顔じゃ無かったのだろうか、思いっきりぶん殴られた。しかも、急所に。 まあ、こんな感じでとにかく運が悪かったのだ。そしてやっと下校のチャイムが鳴ると、すぐさま警察に財布の落し物が無いかの確認に行く為にダッシュで学校を出た。校門を出て、すぐ右に進むと交番が見えてくる。とにかく一刻も早く財布を見つけなければ、と焦っていた。 校門を右に進み、交番が目の前に見えたその時、いきなり足もとに一匹の黒猫が現れた。ワワッと驚いた僕は慌てて猫にぶつからないように足を上げた。なんとか猫にはぶつからなかったが、もうなんなんだよとまたイライラが増えた。そして猫をスルーして交番へ向かおうとしたのだが、その時とてつもない光景を見てしまったのだ。その猫が財布くわえてる。(え?魚じゃないの?って思った人、ギャグセンスあるね。)もちろん目を疑ったが、間違いなく僕の財布だ。安っぽいあのベージュ色の財布だった。そしてよく見るとその猫、いつも帰りがけに撫でて可愛がっている野良猫だったのだ。いや、こんなことある?ってくらい自分でも驚いたのだが、とにかくまずは猫に財布を渡してもらった。中身も、ちゃんと入っている。そして、絶望の中に一光の矢を放ってくれた猫に恩返しのつもりで高級缶詰を買ってあげた。そしてそのまま帰宅。 その夜、なんだかんだで大変だったが、撫でてて良かったぁー!と心の底から叫んだ。 そしてその三秒後に気づいた。缶詰代でグッズ買えなくないか?という事を。 猫が財布を持ってきた。 これは、「猫の恩返し」の方が正しいのだろうか。だが、恩は売ってない。だから、猫が小判を運んだということで、「猫に小判」なのだ。
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