クローゼットの上には

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 逃げ遅れて最後に取り残された私もまた、戸へと向かって足を動かした、 その時。  ポニーテールにした長い(かみ)を、ピンッと引っ張られる感じがして、ふと右手側へ目を向ける。  入って来た時には気が付かなかった大きな姿見に、自分の全身が映っていた。  ―― 鏡……?  気が付かなかったなと、映る自分の姿にチラリと目を向けた。  特に変なモノが映り込んでいるということもなく、恐怖に引き()った表情の自分がそこに立っている。  ―― 何だ、普通の鏡じゃん。驚いた。  しかし次の瞬間。  私は映る自分の姿に青褪(あおざ)めた。  ポニーテールに(まと)められた髪の位置が、おかしい。  本来なら、背に沿()うように流れていなければならない自分の後ろ髪は、不自然な角度をつけて斜め上に浮いている。  それはまるで、誰かに引っ張られているかのように。  もう、教室の中には自分しか残されていない。  それなのに、後ろから視線を感じる。  後ろにあるのはクローゼットと、その上に飾られた小さな子供の写真。  背筋を、ぞわりとしたものが這いあがる。  ―― 早く、早くここから出なくちゃ……  固まった足を必死に動かして、教室を出る。  幸いなことに、髪を引っ張られてその場に(とど)められることはなかった。  後ろ手に戸を力いっぱい閉めると、ガラスがビリビリと音を立てる。  ちゃんと閉まったのかは分からない。  でも、それを確認する心の余裕はない。  早く、日の当たる所へいかなくちゃ。  何故だかそう思って、1階の廊下を全速力で駆けた。  その背をあざ笑うかのように、キャッキャとはしゃぐ甲高(かんだか)い子供の声が聞こえた気がした。
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