未来

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未来

ある友人にこの古本屋を紹介された。 不思議な体験ができるらしい。 ところで私は今、店の前で本日の開店を待っているのだが、一向に開く気配がしない。 明かりがついていないし、ボロボロだ。 本屋をというより廃墟だな。 何者かに肩を叩かれ、「開いていますよ」と後ろから誰かの声が聞こえた。 気のせいかと思ったが、念のためにドアノブを捻ってみる。 なんだ、開いてるじゃないか… 店が営業していることを知って、中に入ってみた。 すると、おじいさんが出てきた。 「やぁ、いらっしゃい」 「こんにちは。不思議な体験ができると聞いてここにやって来たが、本当だろうか?」 「あぁ、本当だよ。好きに見ていってくれ」 「ありがとうございます」 そう言って、私は店の中を歩いた。 わかりやすいな… <未来が見える本> これを買おう。 「これを欲しいのだが、いくらかな?」 「やめときな。そいつは50万円だ。」 「中古なのにそんなに高いのですか?」 「その本は特別なのさ。でも、お前さんにはおすすめしない。後で後悔するよ。」 「でも、その値段をつける価値があるのでしょう?」 「あぁ、あるとも。でもそいつは人の人生を一変させてしまう。」 「私はこんなものに惑わされません。こちらを購入したい。」 「…わかりました。では売りましょう。」 交渉の末、ついにその本を買った。 店に出しといておすすめしないとはいったいどういうことだろうか… まぁ、良い。これで不思議な体験が出来るということだ。 <本の一頁目> みなさん!未来を見たくはありませんか? この本は、あなたの未来を映し出します。 <二頁目> 説明させていただきます。 いたってシンプルです! この本のページに見たい未来の日付を書いて枕の下に敷いて寝るだけです! 夢の中で、あなたの未来がはっきりと映し出されます。 お一人様一回だけです。使い終われば、また本屋に返してください。 その際に売った分のお金はありません。 <三頁目> 1998年4月1日 <四頁目> 2001年2月2日 中古だからみんな使ってるな。 しかし、中古で売ったお金が受け取れないなんて、あの店も随分儲かるだろうな。 私もやってみよう。 八頁目に書こう。 とりあえず一年後… 2021年5月3日 よしこれで枕の下に敷けばいんだな。 今日は寝よう。どんな未来かな… ん?なんだこれは? 今日の私より一生懸命に働く私の姿を見た。 おかしいな。50万円の価値が無いではないか。一回のチャンスを無駄にした。 店へ行き、おじいさんに聞いた。 「どういう事ですか?あんなのが私の未来な訳がないだろう?」 「いや、それがあなたの未来だ。やっぱり、あなたにその本は合っていない」 「いや、私はもう一度未来を見る。 一章は百巻まであるんだろ?買わせてくれ」 「何があっても知らんぞ」 私は二巻を購入した。 そして夢の中で未来を見た。 前の夢よりさらに懸命に働く私がいた。 どういうことだ? 何度試しても私は同じ未来を見た。 と言うより、その前の夢より頑張って働く私の姿を見た。 気づけば百巻が終わり、第二章に突入した。 一冊50万円の本を百冊も買った。 でも未来は変わらない… 私は財布にお金が無いことに気づいた。 でも、明るい未来を見たい… その一心で昨年の自分、昨日の自分より、 私は一生懸命に働いた。 今まで見てきた未来の様に…
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