第4話

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(やべ、そのまま寝てた……)  メイクは軽く落としたけど、スキンケアしないと、と阿南は体を起こす。  明日は一日休みとはいえ、今日の分の喉ケアもしなくてはいけない。自分は雅久ほど喉強くないからな……と恩田のことを思い出し、相手の特性を少し羨ましく思った。  手入れをしながら、バスルームで鏡をみる。自分の、そこそこ整っているとは自覚している顔立ち。大きな瞳をまっすぐ見ながら、ゆっくりともう一回クレンジングした。 (顔も、体格も、そこそこいけてると思うんだけど)  まあ、数センチ、体格という意味では井筒に負けているのだが。いや、ちょうど10センチ近くか。そう思うと悔しいものだ。自分だって背丈はかなり高い方なのに、なんであんなに大きいんだよ、と相手を思う。いや、それでも可愛いなと思ってしまうこともあるのだから、自分は相当この恋にバカになっているとはわかっている。190前後ある大男を組み敷くことに、あれだけ興奮するのだから。 (まあ、えっちできるとは思ってなかったけどさ)  あの日のことを思い出す。井筒を初めて犯した日。そう、セックスしたというよりは、レイプだと思っている。あのセックスに合意なんてほとんどなかった。だって……あの時、井筒に意思なんてなかったのだから。  テレビ出演が増えて、いつもよりも忙しくなった。けれど、グループが売れるいい機会だとも思ったし、恩田が舞台などで頑張っているのもあって、自分も仕事に邁進していた。しかし、精神的なストレスは溜まっていて……そこで、安易な誘惑に乗ることを覚え、セックス依存症みたいになってたのは阿南も自覚している。  どうでもいい相手と体を重ねることで、仕事だけじゃないし、と自分に言い聞かせていたのだ。抱きたくもない無駄に柔らかな体にも、適当に反応する自分の体は浅ましい。けれど……ずっと好きな相手とはどうせ結ばれることがないのだ。刹那の快楽だけを求めてもいいだろうとヤケになっていたのである。自分は好きな人のために、この忙しさに身を捧げているのに。どうせそんなこと、相手は気づかないのだと。そんな風にも考えてしまうようになっていた。  一方、井筒は忙しくなって、阿南のことを構ってくれなくなっていた。当然だ。阿南の仕事が増えれば井筒の仕事が増える。売れる、とはそういうことだ。どうしても恩田の方が現場フォローがいる仕事が多いから、付き添いをサブマネに任されたりして、一緒にいる時間も減って。  ……井筒に構って欲しくて、わざとやばいのとつるんでみたり、煽ったりしていたのだった。
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