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第1話
濡れた音が部屋に響く。
もうこのホテルを使うのは何度目だろうか。その答えに気づいては、井筒はなんとも言えない嫌悪感に吐き気をもよおした。
「んっ……く……」
「は……井筒さ……もうちょっと締めて、ん……そ……ぉ、あ」
いい……と自分の背後で悦に入る男の声にイラつきながらも、井筒は必死で声を抑える。
「……っ」
「……ぅ、あ……は……ぁ、あ、ごめ、まだ出る、ん……っ」
背後から相手の汗が滴ってくる。ごめん、気持ちいぃ、という言葉とともに、シーツを掴んでいた自分の手にその指が絡んできた。それを拒否する力もなく、ただ中に注がれる刺激を受け止めて、息を詰める。
ハアハアとあらぐ息が首元に落ちてくる。すげえ気持ちいい、やっぱり俺たち相性いいね、なんて。まるで愛のあるセックスの後のように告げる甘い声にまた吐き気がした。
彼がイく前にすでにその手で達していた自分のそれは萎えたままだ。中で萎んだそれが出て行くのにホッとしたのもつかの間、上から男の体の重みが乗っかってくる。
「はー……最高……」
「……阿南、重い!」
「えー、俺、最近筋肉落ちて体重軽くなってっけど」
「あ?ツアー前だぞ。筋トレ再開しろ。鈍らせてんじゃねえ」
「どっちへの文句よー。井筒さんってまじツンデレひどいよね」
「今のどこにデレ要素があんだよ。つーか、気持ち悪い。ベタベタしてんじゃねえ」
「はいはい」
降参といった風に井筒の体から離れた阿南は、よいしょ、とその隣に体を横たえ、井筒の体をさすった。
「気持ち悪くない?」
「気持ちわりーよ。ベタベタすんなっつってんだろうが」
「うわ、辛辣。そこは「気持ちよかった♡」とか言ってくれるとこじゃないのかな」
「……ねーわ。気持ち悪いこと言ってんじゃねえよ」
俺、シャワー、と井筒は体を起こすと、その腹の違和感に、う、と呻く。見せつけるように置かれているコンドームの数を見て、頭が痛くなった。阿南が少しにやけながら、井筒の腰を撫でてくるのにもいらつきが増す。
「急に動くときついって。ごめん。……だからさ、もうちょっと横になってイチャイチャしよーよ?」
「……馬鹿か、お前は」
井筒はちらりと時計を見やると、その表示が深夜二時を過ぎていることに絶望した。明日のスケジュールが気になって仕方がない。サイドテーブルに置いたスマホでスケジュールアプリをチェックし、そしてアラームをかける。
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