第9話

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「い、井筒さん……俺もしたい……」 「あ?難しいこと言うな。俺がしてんのにできねーだろ」 「こっちにお尻向けて?」 「はあ!?」  いや、それは……と戸惑った井筒だったが、阿南の切羽詰まった表情に気圧されたのか、渋々その体位を受け入れる。少しの身長差はあるが、いい感じに収まった形で阿南は目の前にある井筒の尻を指で広げた。 「っ、なあ、ぜっっったいに尻はなめるな!」 「え?なんで?」 「なんでじゃねえ。俺のプライドが死ぬ」 「えー……中まで舌入れて舐めたいよ」 「くそ、いつもの勢いはどうしたとか煽るんじゃなかった……」  マジでやめろ、と井筒が言うので、阿南は指先にローションをとってそれを其処に広げていく。熱感を持ったそれを(井筒が嫌がるので)避妊具をつけた指で内側にも塗り込んでいった。 「っ……んっ……」 「は……や、ば……すご……井筒さんの中きつい」 「うるさ……ん、んぅ……」  井筒は井筒で阿南の屹立し始めたそれを根元から舐めあげていく。横側から唇で咥えつつ刺激すると、雄の匂いが自分の口と鼻に充満していくのだろう。嫌そうに顔をしかめて文句を言うが意地になっているのか、行為をやめはしなかった。 「……くそまじーな……」 「俺は美味しいけど」 「あ、大毅……ま、て……そこ、なめんな……ってっ!」 「ここは尻じゃないし」 「大毅ッ!」  ローションで濡らした部分と根元の間、会陰を押し込むように舌で刺激すると、ビクッと内側も震える。中からも外からも刺激されて、井筒はガクガクと大きく震えた。 「久々、だし……よくほぐさないと」 「っ……お、前……なんか変なもん、使ってねえだろうな!?」 「変なのって?ちょっと熱くなるやつ……前も使ったけど……あ。害はないから」 「そういう問題じゃ、くそ……っ」  後ろへの刺激がきついのか、井筒の余裕はなくなってきたようだった。中に入れている指はきゅうきゅうと締め付けられるし、熱感を持って阿南の指の根元まで絡みついてくる。3本目の指を添えながら、また内外両方から刺激してやると、井筒の背中がビクッと跳ねる。 「あ、あ、あ……っ、んんっ………」 「圭兄、あ……かわい……後ろ、感じてる?」  背中を反らせて、もう阿南のものなど舐められずに体を震わせている体躯が愛しい。3本の指を根元までずっぷりと飲み込んだ其処は誘うように根元を締め付けてくる。はあはあと息をあげる井筒の痴態に、阿南はゴクリと息を飲んだ。いつの間にか自分のモノは先走りで彼の顔を汚していた。 「っ、そ、その呼び方やめろ……悪いこと、してる気に……」 「え?」 「い、嫌だろ!なんか……その……」  圭兄って昔からの……など今更ゴニョゴニョ言いだすのに、阿南は少しムッとした。少しむくれた後に、じゃあ井筒さんのまま?と聞くと、井筒はまた、う、と黙ってしまう。 「ごめん、どっちにしろ罪悪感がやばい……もう……お前は俺の名前を呼ぶな……」 「はあ!?なんでだよ!?」  無体なことを言う井筒に思わず突っ込んで、その体をこちら側に向けるよう促す。正面に顔を向けてキスをしようとすると、いや、だってよ……と井筒は顔をそらしてしまう。なんでそんなこと言うの、と阿南はねだるようにその頬を撫でた。いつもはきっちりとあげている前髪が落ちて、オフの顔になっている井筒。こんなにも素直に照れたような表情を見せてくれているのはいつ以来だろう。ずっと互いにどこか仕事モードで、ずっとどこかで線を引いていた。慣れ親しんだ呼び名を捨てて苗字で呼びあって何年になるのだろう。そう思うと、なんだか我儘を通したくもなる。 「名前、呼びたい……お、俺のことも、もっと、大毅って昔みたいに呼んでほしい……だめ?」 「……」 「名前も呼ばせてくれないなんて寂しいよ」  泣きそうな声が出てしまう。情けないとも思いはしたが、それが井筒には効いたのか、少し、うう、と唸って悩まれた挙句、許可が出た。 「じゃあ……圭の方で……」 「圭さん?」 「……」 「え、なんでそんな微妙な反応なの?」 「いや……悪い。はい、圭さんでいいです」 「ねえ!?」  顔をそらした井筒に迫ると、井筒は耳を赤くしてうつむく。 「……恥ずかしいんだよ。察しろ、お前……」  そんなことを言い出すので、あまりに愛しくてその顔を下から掬い上げるようにキスをした。そしてそのままシーツの上に押し倒すと、お互い、はあ、と大きな息をつく。少し暗くした部屋の中で、見つめあった表情は、長い付き合いの中でも互いに初めてみる顔だった。
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