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魔法の鍵を持つ少女の話
これは、オレンジ色の空に薄い青色の雲が浮かんでいる時間の話。
ある所に、一人の少女がいました。
少女はその細い手首に、鍵が付けられた金色の鎖のブレスレットをしていました。
少女は、ブレスレットに付いている鍵を「魔法の鍵」だと言いました。
「私のこの鍵は、魔法の鍵なの。どんな所へも行けるのよ。でも、一つだけ、行けない場所があるの」
「それはどこなの」
少女は答えます。
「私の居場所。そこには、絶対に行くことが出来ないの」
「なんで、行くことが出来ないの」
少女は少し目を伏せ、悲しそうに答えました。
「なぜなら、それはこの世にないからよ。私の居場所は、この世のどこにもないの」
「僕が、居場所になってあげるよ」
少女は首を振りました。
「遠慮しておくわ。私、誰かに縛られるのは嫌いなの。私が自由にいていい場所こそ私の居場所だと思うから」
「そう」
少女は静かに答えました。
「ええ。ごめんなさいね」
「ううん。大丈夫だよ」
「それより、今日はもう日が落ちてしまうわ。早くお家へおかえりなさい」
少女は優しい顔で言いました。
「そうだね。また明日」
それから、その少女は一度も姿を現しませんでした。
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