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2. サイゴンの匂い
期待と不安に胸を膨らませ、斗馬と明はベトナム首都であるサイゴンに到着した。大手新聞社の紹介でジョセフと名乗る米人に会い、まずは数日をサイゴンで過ごす事になった。
斗馬は大学生時代に、アメリカ留学しアジア諸国や欧州旅行を経験している。大都市は国は違ってもなんらかの共通点はあると斗馬は考えていたが、サイゴンは大都市の要素に『ある事』を加えた街だった。
『ある事』とは…他の大都市にはない、むせ返るような独特の『匂い』だ。
途上国独特の下水の臭いではない。食べ物のようなフレンドリーなものではない。排ガスのような工業的なものではない。斗馬は街を案内されている途中、匂いの正体に気づく。
この匂いは『死』だ。街中にはNLFの死体が晒し物の如く放置されている。
サイゴン市民は、その『死』を軽視…というか無視している。
視界では無いものとされても、その『死』は不快な異臭となる。その時、市民は初めて不快な存在として意識する。
空襲で死体には慣れていたつもりだが、こんな扱いをされた『死』は初めてだと、斗馬は衝撃を受ける。
「NLFの死体はどこから来たの?」尋ねると、ジョセフは「そのうちわかるよ。」と素っ気なく言った。
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