3. 祭りのように

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3. 祭りのように

 翌日、斗馬と明は街中を取材する。死体の件を除けばサイゴンは大都市の活気に溢れるいい街だ。  夕方、ジョセフに会いカフェに入ろうとした瞬間、悲鳴を上げながら走る子供たちに遭遇する。NLFの攻撃か!と構えるが、冷静に見ると市民は避難というより、祭でもあるかのようなポジティブな興奮に包まれている。子供達は競って先頭に行くために走り、その背後を女性陣が追っている。    ジョセフは有名ホテルの方向に指をさす。  斗馬はその時、ジョセフの右手の人差し指は半分しかないのに気づく。  人の波に導かれホテルのオープンガーデンに着く。  ガーデンには10名の南ベトナム兵と2名の米国兵がいる。少し離れて10歳くらいの子供が南ベトナム兵に野球ボールのようなものを奪われてぐったりしている。  明は職業病でカメラを取り出して準備すると、ジョセフがカタコトの日本語で「ごめん。これはダメ。」と止めた。  次の瞬間、少年から野球ボールを奪った南ベトナム兵は、駆け足でその場を離れる。そして、整列していた南ベトナム兵は一斉に少年を銃で撃つ。    少年は血だらけというより…穴だらけだ。  銃声の後、悲鳴ではなく歓声があがる。待ちに待った花火を祝う如く、女性陣と子供達は喜んでいる。  斗馬は混乱してジョセフと明を見る。  ジョセフは半分しかない右手の人差し指を慰めるかのようにさすっている。  明は両目を大きく開き、自身をカメラのように機能させ、銃殺された少年と銃殺した軍人の一人一人を凝視している。  騒ぎがおさまり、3人でカフェに戻る…。  注文したコーヒー飲み、ジョセフは右手の人差し指を摩りながら、ゆっくりと説明を始めた…。 「大手新聞社から取材の場を提供する事を一任されている。率直に言って僕の引率では取材したい戦争の前線まで行くのは難しい。今日の昼、昔の米軍時代のボスに連絡をとった。ボスは君らが彼が総括するチームに参加する事を許可してくれた。」  斗馬と明は「米軍として一緒にNLFと戦う事になるのか?」と動揺する。 「彼のチームは200名ほどの大きな軍だ。約2割が米人で残りは南ベトナム人の構成になっている。米軍は南ベトナム軍の指導やサポートという名目だったが、NLFの勢いが激しくなっていて攻撃を受けたら米人も戦う。チームに参加するという事は、君たちも基礎訓練を受け、いざという時は戦う。」  危険は大きいがNLFと接触できるのは凄い。斗馬と明は参加する価値があると答える。 「僕は利き手の人差し指を失ってしまったので、武器が持てなく軍には参加できない。返事は今決めなくてもいい。3日後にボスのハート氏と面談の約束があるので、それまでには返事が欲しい。」  斗馬と明は、参加するつもりだったが、返答の猶予を貰えたので2日後に伝えると答える。  ジョセフは有名なステーキハウスの場所を案内し、近くにあるガールズバーも紹介し、去っていく…。
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