4. バタフライ、サソリとカエル

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4. バタフライ、サソリとカエル

 斗馬と明は、あまり食欲がわかないが、ステーキハウスでワインと鶏肉料理を頼む。 「カメラの使用が許されるのなら、軍に参加したい。サイゴンで独立を訴える若者がリンチのように無残に殺される姿は、できればもう見たくない。」と明は言い、斗馬は同意する。  ワインを飲み、鶏肉料理は一口食べたが、処刑シーンが脳内に残っており、食が進まない。気晴らしにガールズバーに行こうと明は言う。    ガールズバーで紹介された6人の女達は…明らかに未成年ばかりだ。  明は気にせず、肌が黒く目が大きな少女を選び、用意された部屋へと消える。    斗馬は少し迷ったが、背が高く大人っぽい少女に年齢と名前を聞く。 「シックスティーン。バタフライ。」  バタフライは他の少女より肌の色が白い。目は茶色と緑を混ぜたような榛色だ。斗馬はバタフライを選び、奥の部屋に行く。  部屋はベットと小さな机がある。水が入った水差しとグラスが2つ机の上に置いてある。  斗馬はワインの酔いが残っていたので、ベットに座りバタフライに水をお願いする。  バタフライは手際よく水をグラスに注ぎ渡す。机の近くに立ったままだったので、斗馬はベットに座ったら?と英語で話しかける。  バタフライは小さくサンキューと言い斗馬から少し離れた場所に座る。  会話もなく無言だったが、斗馬はバタフライを観察する。とても綺麗な横顔だ。16歳と言ったがもう少し若いかもしれない。しかし、所作はしっかりしている…。  ノースリーブから覗く細く長い腕や、ショートパンツが似合う真っ直ぐな綺麗な足を見ているうちに、斗馬の気分は高ぶる。  斗馬がそっと手を肩に差し伸べると、バタフライは少しびくっとしたが拒んではいない。  …ことの後、英語が堪能なバタフライに斗馬は関心し、会話をする。 「日本に子供用のお話ってある?」 「童話や寓話みたいなものは、たくさんあるよ。」 「ベトナムにも有名な寓話があるの。サソリとカエルの話って聞いた事ある?」 「ない。」 「短い話だから聞いてくれる?」 「いいよ。」 「ある所に川を渡りたいサソリがいました。サソリは泳げないのでカエルに背中に乗せてくれと頼んだの。カエルは最初は断った。毒針で僕を刺すつもりだろうと。サソリは泳げないので、カエルを刺したら一緒に死んでしまう、絶対刺さないよと説得しました。カエルは納得しサソリを背中に乗せて川を渡り出したの。」 「平和な話だ。寓話の中ではサソリとカエルも仲良くなれるんだな…。」 「川の途中まで来て、カエルは背中に激痛を感じた。振り向くとサソリが毒針を背中に刺していた。カエルは怒り悲しんだ。どうして?君も僕も死んでしまうじゃないか。サソリは死にかけているカエルに言った。わからない。多分これはお前がカエルで俺がサソリだからなのかもしれない。性(サガ)ってやつなんだろう…。結局2匹とも川に沈み死にました…。」 「残酷で救いようのないオチだな。」 「南ベトナム人は知ってるの。この戦争の結末を…。」
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