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真夜中の訪問者たち
木崎は真っ暗な部屋の中、家族で楽しく暮らした日々を思い返した。
「はぁ……あの頃に戻りたい」
切迫した状況とは裏腹に、木崎の目からはユルユルと涙がこぼれ落ちた。
若くして起ち上げた会社はしばらくして軌道に乗り、贅沢とは言えないまでも安定した生活を送れるようになった。同郷の幼馴染と晴れて結婚し、二人の子供も授かった。周囲からは木崎の暮らしを羨む声も聞こえたが、がむしゃらになって仕事を頑張った結果だから当然だと思っていた。
「金がねぇ……」ポツリとこぼした。
ある企業との取引がきっかけで詐欺に遭い、多額の金を奪われ、そのまま会社は倒産。莫大な借金を抱え、借金取りに追われる始末。挙げ句の果てには、妻と子供にも逃げられ孤独の身に。不運な人生を自ら憐れみながら、寝室のベランダを開けたときだった。玄関から聞こえるかすかな物音。振り返る木崎の目に飛び込んできたのは、玄関から忍び込む人影だった。
ベランダの外に片足を投げ出していた木崎は、音を立てず足を引っ込めると、カーテンに身を潜め様子を伺った。心臓がバクバクと音を立てている。こんな時間に借金取りが姿を見せるはずがない。もしも借金取りだったとしたら──殺されるんじゃないかという恐怖が木崎を襲い、こめかみを汗が伝った。
人影は忍び足でリビングにやってくると、引き出しやクローゼットを慎重に開けながら、中を物色しはじめた。木崎は勘づいた──これは借金取りじゃない。泥棒だ!
「おいっ!」
カーテンから飛び出し、木崎は叫んだ。すると、「きゃぁッ」という女の悲鳴が耳に飛び込んできた。
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