序章

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序章

 すべてが夢だったら良かったのにと思うことがある。  たとえば、ハッピーな夢から覚めて落胆した朝。素敵な恋人に突然別れを告げられた夜。きっと「この現実が夢で夢が現実なら」って考えるだろう。  たとえば、突然リストラを言い渡された日の朝。夕焼けが無性に心に沁みる日暮れ。もしくはなんでもない日の憂鬱な気分の真っ最中。きっと「こんな現実潰れて夢に逃げたい」って考えるだろう。  たとえば、いつもと同じように寝坊して急いでパンを食べて学校へ駆け込んだら学校が廃墟になっていて、振り返ると今の今まで走ってきた道路も廃れて乗ってきたはずの電車も電線高架ごと朽ちているのを目撃した朝。きっと自分の記憶を疑って疑って、最終的には「これが夢なら良かったのに」って考えるだろう。    すべてが夢なら良かったのに。  涙も枯れ、繰り返しこう思う殺伐たる日々の始まりは本当に唐突だった。
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