花びら

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花びら

 廣澤君はまだ検査から戻らない。予定より時間がかかっていた。代わりに担当看護師の田中さんが笑顔で病室に入って来た。 「検査は終わったのですが、麻酔が完全に覚めるまでもう少しかかるみたいです」 「わざわざありがとうございます」  私は立ち上がって軽く頭を下げた。検査が無事に済んでほっとした。家族以外に結果を直接教えてはくれないだろう。そんなことを考えていると、田中さんが生けてある花の前に立ってこちらを振り返った。 「廣澤さんが仰っていました。夏目さんとは学生時代のお友達で、三十年ぶりにクリニックで再会して本当に驚いたって」 「私も最初は信じられませんでした」  クスリと笑って田中さんのそばに近寄り、感慨深く花に視線を向けた。 「いつも色んなお花をお持ちになりますよね? この可愛いピンクのお花はなんという名前なんですか?」  私は健気に咲く花びらにそっと触れた。 「名前はスターチス。花言葉は、変わらぬ心、途絶えぬ記憶。花びらが落ちた後も、美しいガクが残るから、everlasting flowersって呼ばれてるんです」 「思い出のお花なんですね......。また後で来ます」  頷きながら聞いていた田中さんは、にっこりして病室を後にした。  窓から見える真っ白な入道雲はゆっくりと形を変えて動いている。  廣澤君は後どれくらいで戻って来るだろうか?                 
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