オパルの涙とチューベローズの花冠

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 朝、寄宿舎に鐘が鳴り響く。すぐ側に有る学校の鐘が朝を告げたのだ。  この寄宿舎で暮らす少女に、隣で寝ていた人形が声を掛ける。 「起きて。朝だよ」  少女はもぞりとベッドの中で蠢いてから、うっすらと瞼を開く。真っ先に目に入ってきたのは、ゆらりと何色もの光を照り返す、オパルのような瞳。それを見て少女は安心するとともに、朝が来たのだと実感する。 「おはよう。ごはんに行く準備しようか」  そう言って少女が起き上がる。人形もベッドから降りた。立ち上がると、寝ている間に膝までめくれ上がっていたモスリンの寝間着の裾がふわりとふくらはぎの辺りまで降りてくる。少女は人形にブラシを渡し、自分は窓辺に置かれたたらいで布巾を濡らして固く絞り、顔を拭いた。  一通り手入れをした後は、少女も人形も学校の制服に着替える。スカートがふわりと広がり、ぴったりとしたカフスの付いたボルドーのワンピースだ。白いセーラーカラーとカフスがアクセントになっている。  すっかり着替えた後、ふたりは食堂へと向かう。道中、同じ宿舎に住んでいる同級生と顔を合わせると、おはよう。と軽く挨拶だけを交わした。  宿舎と同じように煉瓦造りの食堂では、皆座る席が決まっている。人間は朝食のパンと、ベーコンと青菜を炒めたものと蛍石の蜂蜜がたっぷりかかった柑橘が乗った皿と、洛神花のお茶の入ったマグカップを受け取ってから、人形は朝食分の鉱物、何か好きな物をふた欠片受け取って人間と一緒に席に着く。テーブルの上には翡翠の花の柄が折り込まれた、オフホワイトの布がかけられている。  全員が席に着いてから、寄宿舎の管理人が声を掛け、みなで食べ始める。  これが、この寄宿舎の毎日の風景だった。  朝食が終わり、少女は学校で授業を受ける。好きな教科はあるけれども、特段勉強が好きなわけでもないし、特に今受けている苦手な授業の時などはどうしてもうんざりしてしまう。  ノートを取りながらぼんやりと人形のことを考える。この学校に来たいと言ったのは自分だけれども、こういう時はどうしても、授業を受けなくていい人形が羨ましくなってしまうのだ。  でもそれも、もうすぐ卒業だと思うとなんだか愛着の湧いてしまう時間だった。
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