オパルの涙とチューベローズの花冠

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 それから数日後、少女達は卒業式の日を迎えた。式は学校ではなく、宿舎のホールで行われた。卒業式には人形も参加するので、学校の方のホールでは手狭なのだ。  名前を呼ばれた少女と人形が、ひとりずつ卒業証書とチューベローズの花冠を授けられる。白い花の花冠を頂いた少女と人形たちは、みな誇らしげだ。  卒業式が終わった後は、それぞれに別れを惜しんだ後、各自の部屋に戻って荷物をまとめる。卒業した後、いつまでもはこの宿舎にいられないのだ。  あの、卒業式を迎えられなかった柘榴色の人形は、専門の業者を使って一足先に家へと送り返したと聞いている。その事を思い出しながら、使い慣れた部屋の中で制服を着たまま、少女はトランクに荷物を詰め込んでいく。この学校に来たときよりも、教科書とノート分だけ荷物が増えていた。  荷物をまとめ終わった少女に、オパルの人形が話し掛ける。 「あのね」 「ん? どうしたの?」 「私、卒業して家に帰ったらあの子に手紙を書くって約束したの」 「うん」  あの子というのは、もうここにはいない柘榴色の人形のことだろう。 「送る相手、いなくなっちゃった」 「……そうだね」  少女は、人形にどんな言葉をかければ良いのかわからなかった。それを人形もわかっているのだろう、部屋の扉を開けて荷物を持った少女にこう言った。 「もう行かなきゃ。チューベローズが枯れちゃう」  卒業式で授けられたチューベローズの花が枯れるまでに家へと帰るのが、この学校でのしきたりだ。頂いた花冠から漂う甘い香りは未練を感じさせたけれども、少女はそれを振り切って部屋を出た。  宿舎を出ると、白い花冠を頂いた少女と人形たちが、何人も何人も、駅に向かう道を歩いていた。この寄宿舎に入ったばかりの頃は、少女と人形の人数が同じであったのに、数年経った今では、ほんの少しだけ少女の人数の方が多かった。その多い分の少女は、在学中に人形が寿命を迎えてしまった者達だ。  惜しむようにゆっくりと歩き、駅に辿り着く。駅のホームは、あの学校の入学式と卒業式のためだけに広く作られている。なので、今日卒業した少女と人形たちが全員入れるほどだった。  しばらく待っていると、煙を上げて汽車がやって来た。数年ぶりに見る黒い車体。それを見て、人形は少女の手を握る。  ホームについて扉が開かれた汽車に、卒業生と人形が乗り込んでいく。けれども、少女は何故だか汽車に乗ることがためらわれた。  このまま汽車に乗れないと困るのは自分なのに。そう思っていたら、手を握っていた人形がぐっと手を引き、汽車に乗り込む。 「行こう。ここはもう私たちの居場所じゃないんだ」  そう言ったオパルの人形は、泣きそうな顔をしていた。
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