第四章

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第四章

 革鎧に剣。夜警の装備で白昼の城下町を歩く。その違和感は、開け放たれた城の門を潜る人々の楽し気な声も相まって、口の端を強張らせた。  広大な庭に入ると皆、焼肉に腸詰、果汁や葡萄酒を売る露店に群がる。舶来品らしき品々を前に、財布を開くのは貴族達だ。  その賑わいの向こうには、円形の舞台が設えられていた。半周を町の群衆が囲み、槍を持ち、鎖帷子の胸に花を挿した兵士たちが、奥の半分を占めている。花は一人ひとり異なっている。兵士個人の好みなのだろうか。  最奥にある一席も、花で飾られていた。一段高いその椅子で、領主が上演を終えた役者へ拍手を送っている。   「失礼。旧シルヴァ村の、リヴィエール様ですね。どうぞこちらへ。準備が整うまで、幕の中でお待ちください」    兵士は礼儀正しかった。よく磨かれた槍が眩しい。防具は革製の簡素なものだが、傷一つなく、金持ちの靴のように光沢がある。観察する俺の視線は不躾だったろうが、相手に気にする様子はなかった。    舞台の傍に張られた幕の中では、役者たちが荷物をまとめていた。兵士が「どうぞ」と背のない椅子を置く。   「皆、楽しみにしていました。最近の決闘は、兵士の揉め事が拗れたときの、最終手段扱いで。私欲でなく村のために挑む貴方を、領主様も高く評価されています」 「……どなたにお相手願えるのでしょうか」 「今、会場にいる護衛の兵士の中から募っています。会場の皆は知らされていないんですよ。自ら名乗りを上げれば名誉にはなりますが、領主様も悪戯がすぎますね。決まったのかな、すごい拍手だ」    軽口を侮りと見て無言でいると、兵士は幕の外を覗き、背筋を伸ばした。 「どうぞ、舞台へ」    兵士は厳かに、俺を舞台上へ案内した。群衆も衛兵も、領主の顔もよく見える。衛兵の一人が、胸の花と槍を仲間に預け、兜を被って剣を持ち、こちらへ上がってくるところだった。  面頬で顔の見えない相手と向かい合うと、領主が立ち上がる。 「リヴィエール、君のことは皆に紹介させてもらった。村のため、勇敢にも立ち上がった君に、敬意を表する。また君の前に立つ者も、自ら相手を買って出た精鋭だ。存分に戦いたまえ」  始めの合図を聞いたかどうか。鎖帷子の金属音に反応して、足が動いた。  相手の剣が風を切る。森と違って障害物がないから、斬撃の範囲が広い。剣を傷めないよう、走り込んで避けた。  兜で視野が狭いはずだし、足の運びは俺より遅い。相手はこちらを見失うだろうと踏んだのだが、思わぬ素早い攻撃が飛んできた。避けたが、まんまと誘導されたらしい。金の柄が輝いた瞬間、狙いすまして肩口に振るわれる刃を、とっさに剣で受けるしかなかった。  たった一撃で、愛剣が曲がった。  それからの行動は無意識だ。相手を退けられないなら、早く戦闘不能にしなければ。相手は段違いに強いが、夜盗と対峙するときと同じだ。少ない手数で確実に、仕留める。  刃を受け流し、顔面目掛けて突く。相手が下がる。視線をそらさず、再度突くと見せてーー膝に、打ち込んだ。  骨の折れた衝撃が伝わる。仰向けに転倒しながら、相手は剣を放さなかった。その腕を踏みつけ、曲がった剣の先を面頬の下に滑り込ませる。  そのまま体重をかけると、がらんと音を立て、相手の剣が舞台上に転がった。
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