第五章

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 窓の隙間から、日が差してきた。剣と小箱の留め具が輝く。ラウリエからの贈り物。疲れを癒せとの言葉を思い出し、箱を開けてみた。  小さな正方形の、白い塊が十二個。見た目は雪を固めたようだが、摘まむと表面はざらついていた。薬に害はあるまいと、一息に口に入れる。  純粋な甘さが、舌に絡んだ。この冬、甜菜からできた砂色の塊とも違う。これは体より、心を癒す薬だ。高価なのも納得できる。もっと安ければ需要は高いだろうに。  そのとき、ふと思いついた。  領主は、砂糖のような味はほかにはないと言った。だがこの村でできたあれは、味が似ている。砂糖ほど見た目は良くないが、形を揃え、手頃な値段で売り出すのはどうだろう。新たな収入源になるのではないか。    それなら領主には……物を貨幣に換える手数料を免除してもらう。両替所は公営で、領民が直接損をするわけではない。そうだ、三年という期間限定なら、悪くは思われないだろう。  そしてその三年の間に、旧シルヴァ村産の新たな砂糖を広め、財を成す。  塩にも、花にも困らないほど。    心臓が早鐘を打ち、箱を持つ手が熱を帯びていた。傍らの剣を取って抱きしめる。鋼は期待したほど冷たくはなかった。優しすぎる持ち主に似たか。立ち上がり、水差しから水を飲んで、息をつく。   「ラウリエ。この選択ならまた君を、親友と呼べるよな」  積年の孤独に墓標が立った。もう私欲に苦しむことなく、村のために尽くせる。    砂色の砂糖が入った椀に水を注ぐ。そこに萎れかけた白薔薇を挿して窓枠に置き、窓を開けた。湿った風。抱えた剣の柄が曇り、水滴がつたう。  ライラックと薔薇、いつかと同じ香り。その向こうに広がる空はいつになく晴れやかに、止みかけの雨の隙間に虹を飾っていた。
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