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第1章
老人はわずかに震える年輪の刻まれた皺の多い手に持った100円ライターで、ようやく煙草に火をつけました。
朝陽が見慣れた都会の景色を、産声をあげた赤ん坊のような新鮮さで眩く染めます。
色づき始めた東の空の下には、巨大なJR仙台駅の建物が宙に浮かぶ城のようです。
眩しい
………
朝陽は、今日も変わりなく枯れ果てようとする老木にさえ容赦なくその眩い光を放ちます。
仙台市で戦後最初にオープンした老舗百貨店が、時代の駆け抜ける速さに追いつけず閉店したのは去年のことでした。
閉ざされた南側の正面玄関脇に、老人はダンボールと新聞紙で寝床を作り、枯れ果てる老木のようにおのれの人生に幕を閉じようとしていました。
さらに陽が高くなり通行人の数が増え始めると、そんな老木にさえ否が応でも好奇と蔑み憐みの視線が向けられます。
伸び放題の長い髪、寒さを凌ぐための薄汚れた古い毛布、そして着替えることのない黒ずんだ服…
憐みならまだいい方かもしれません、中には唾を吐きかける輩もいました。
黙って老人は黒ずんだ袖で唾を拭い、雑踏から聴こえて来るスズメら小鳥たちのさえずりに耳を傾けます。
見慣れたビル群が朝陽に反射して、さまざまな方向へ光が派生し、その光から飛び出した小鳥たちのさえずりを…
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