第2章

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第2章

老人が小鳥のさえずりに耳を澄ませていると、やがて老人の頭の中に、1曲のピアノソナタが流れ始めました。 自分の記憶に間違いがなければ、ベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴(ひそう)」第2楽章だと感じながら… 老人はそっと目を閉じ、黒ずんだ袖から覗く細い腕を膝に乗せて、細く長い指をゆっくりと動かし始めました。 ビル群の隙間から覗く朝陽が老人をスポットライトのように包み、身体を小さく揺り動かしながら、老人は架空のピアノを弾き始めました。 🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵 🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵 🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵 🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵 ……… すると少し離れたところから、じっと老人を見つめる視線があります。 クリーム色の長い髪に(あお)い瞳の西洋人形のような美しい少女が、じっと老人を見つめています。 すぐに老人は手を止めて下を向き、こんな浮浪者の自分が、架空とはいえ身分不相応なピアノ演奏に(ふけ)ったことに、とても恥ずかしくなりました。 早く立ち去ってくれ、こんな(みじ)めな老いぼれなどに構わないでくれ、と()けた頬を紅潮させながら… しかしクリーム色の長い髪の少女は、なおもその不思議な碧い瞳で老人を見つめます。 しかも逆光する朝陽を背景に、小鳥たちのさえずりに共鳴するかのように微笑んでいます。 老人は驚きさらに下を向きました。 するとクリーム色の長い髪の少女は、なんとミモレ丈の少しふんわりした白いスカートを(なび)かせながら走り寄り、可憐な微笑みをたたえて問いかけました。 おじいさんはピアノがお上手ですね 今、どんな曲を弾いておられたのですか? ……… なんだかわたしには おじいさんがとても素敵な曲を 弾いていられたように感じました ………
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