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第2章
老人が小鳥のさえずりに耳を澄ませていると、やがて老人の頭の中に、1曲のピアノソナタが流れ始めました。
自分の記憶に間違いがなければ、ベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」第2楽章だと感じながら…
老人はそっと目を閉じ、黒ずんだ袖から覗く細い腕を膝に乗せて、細く長い指をゆっくりと動かし始めました。
ビル群の隙間から覗く朝陽が老人をスポットライトのように包み、身体を小さく揺り動かしながら、老人は架空のピアノを弾き始めました。
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すると少し離れたところから、じっと老人を見つめる視線があります。
クリーム色の長い髪に碧い瞳の西洋人形のような美しい少女が、じっと老人を見つめています。
すぐに老人は手を止めて下を向き、こんな浮浪者の自分が、架空とはいえ身分不相応なピアノ演奏に耽ったことに、とても恥ずかしくなりました。
早く立ち去ってくれ、こんな惨めな老いぼれなどに構わないでくれ、と痩けた頬を紅潮させながら…
しかしクリーム色の長い髪の少女は、なおもその不思議な碧い瞳で老人を見つめます。
しかも逆光する朝陽を背景に、小鳥たちのさえずりに共鳴するかのように微笑んでいます。
老人は驚きさらに下を向きました。
するとクリーム色の長い髪の少女は、なんとミモレ丈の少しふんわりした白いスカートを靡かせながら走り寄り、可憐な微笑みをたたえて問いかけました。
おじいさんはピアノがお上手ですね
今、どんな曲を弾いておられたのですか?
………
なんだかわたしには
おじいさんがとても素敵な曲を
弾いていられたように感じました
………
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