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第3章
物心がついた時、すでに少女ハルナは、女子修道会に支えられキリスト教の教えのもとに運営されていた、小高い丘の上の児童養護施設で暮らしていました。
父と子と聖霊のみ名によって
わたしたちの罪をおゆるしください
わたしたちも人をゆるします
わたしたちを誘惑におちいらせず、悪からお救いください
アーメン
………
毎朝、食事の前に目を瞑り掌を合わせて神様にお祈りを捧げます。
ハルナはアゲハ蝶のように美しい顔立ちと華奢な身体で、世話をしてくれるシスターの間では秘かにマリア様というあだ名がつけられていました。
とくに長い黒髪が美しい銀縁メガネの若いシスターから、特別に可愛がられていました。
ハルナちゃん
あなたはマリア様のように美しい
いつの日か
ふたたびあらわれるイエス様の
おそばにより添うのは
あなたよ
………
ハルナは、脳の奥底のかすかな記憶として、「森」の奥で蛹の中に眠る自分と、どこからか聴こえて来るピアノの音色が、自分の出生の秘密を解く大切な核心として感じていました。
母の子守唄のように優しく包み込むように、儚くもかなしく美しい曲を…
ハルナは、日本人とは思えないクリーム色の細く長い髪のため、よく両親はきっと白人のような外国人だったのよ、と囁かれました。
そしてハルナ10歳の誕生日に、長い黒髪に銀縁メガネの若いシスターから、ハーモニカとRavelの「亡き王女のためのパヴァーヌ」の楽譜を贈られました。
ハルナちゃんがまだ赤ちゃんだったころ「森」の奥で聴こえたという曲は、こんな曲ではなかったのかしら
………
ハルナはとても嬉しくて、毎晩、前庭の桜の木の下の木製ベンチに腰かけ、満天の星空に向けてハーモニカの練習に励みました。
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