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第4章
見慣れたビル群が朝陽に反射して、さまざまな方向へ光が派生し、その光から飛び出した小鳥たちのさえずり…
小鳥のような可憐な声に驚いて、老人はようやく伸び放題の髪に隠された薄汚れて皺は多いものの端正な顔を上げました。
老人は、目の前にいるクリーム色の長い髪に碧い瞳の少女が、幻ではないかと思いました。
派生した朝の光から飛び出した小鳥が人間の少女に姿を変え、こうして目の前に現れたのではないかと…
しかし老人は、現実に目の前にいる少女の澄んだ瞳の強い視線を感じました。
突然の問いかけに、返えす言葉がなかなか出ません。
すると小鳥たちのさえずりに共鳴するかのような微笑みをたたえた少女は、クリーム色の長い髪を靡かせて、ふたたび問いかけて来ました。
おじいさん
びっくりさせてごめんなさい
………
とても素敵な曲だと思いました
弾いていられたのは何という曲ですか?
何かに立ち向かうような
そんな曲だと感じました
………
あらためて老人は、見慣れたビル群の隙間から覗く朝陽を眩しく感じながら、常に日陰のように貧しかった自分の人生を振りかえりました。
ピアニストを目指したものの挫折をし、やがて妻や子供も離れていった、すべてに絶望し酒に溺れついに何もかも失った…
しかし、この少女の碧く澄んだ瞳に見つめられて、老人は彼女の問いかけに人間としての最後の矜恃をもって答えなければならないと悟りました。
お嬢さん
わたしが架空のピアノで弾いていた曲は
ベートーヴェンのピアノソナタ第8番
「悲愴」第2楽章です
………
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