192人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
1 修道女志願
――いいえ、シスター。
わたしの決意について、ご心配になる必要などないのです。心はすでに、定まっております。
1
親愛なるシスター・オルランド
ダチェットはもうすっかり春の匂いでいっぱいです。
いま小さな蝶が、中庭のサンザシの若葉に舞い降りました。
シスターの暖かな御導きにより、つらい冬を乗り越えることができたこと、深く深く感謝しております。わたしの心を苛んでいたつらい冬を。
この春の陽に輝く庭のように、いまは、わたしの心も明るく照らされております。
シスターと同じ道を歩むのだという希望を得て。
いいえ、シスター。
わたしの決意について、ご心配になる必要などないのです。心はすでに、定まっております。
修道院での厳しい修練を耐え抜く力が、わたしの身体にはないのではとお尋ねでしたね。どうかそのことも、ご心配なさらないでください。
この冬、わたしは大変健やかに過ごすことができました。
シスターのお導きにより、これまでより一層、強い信仰をもつことができたからに相違ありません。
これからも、ただひたすらに天のお父様と主イエス・キリストにお仕えするならば、わたしの弱い心だけでなく、この身体も、きっともっと丈夫になりましょう。
ですから、どうかシスター・オルランド。
わたしの誓願が聞きとどけられますよう、お力添えください。
敬愛するイエスさまとあなたの小さき羊
リルより
ユージニア・リリアン・スタンレーは、ペンを置き、書き終えたばかりの手紙の署名の上に、そっと吸取器を乗せた。
……お嬢様。
レディ・ユージニア。
ドアの外で呼ばわる声に不意をつかれ、リルが思わず飛びあがりそうになる。
あわてて手紙を揃えて、ドアへと向かった。
「伯爵夫人がお呼びです。テラスで午後のお茶をご一緒にと」
メイドの言葉に、リルが静かに頷く。
小さく膝を折ってリルに挨拶をすると、メイドはすぐに、その場を下がって行った。
最初のコメントを投稿しよう!