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「何をしとるんじゃ、お前。」
「え……わああああああああっっ!!」
あまりにびっくりして、すぐ後ろが階段であることも忘れて思い切りのけぞってしまった。衝撃で階段を転げ落ちる。
「いったあ………」
階段がたった三段でよかった。鳥居の前で同じことになっていたら、死んじゃっていたかもしれない。強くぶつけた頭と腰はズキズキ痛いけれど。いや、それより。
「年の初め以外で珍しく人が来たと思うたら、賽銭箱の中なんぞに手ェ突っ込んで、あげく箱を壊さんばかりにどんどんやりおって。」
箱の向こうで小さな子供が、腕を組んではあ、とため息をついている。
「さては賽銭泥棒か?童。」
一段声が低くなって、じろりと睨まれる。
「いや、あの、えっと……」
突然すぎて、頭が真っ白になってなにも言葉が出てこない。はあ、ともう一度その子はため息をつくと、手をついてひらりと箱を超え、ふわりと階段から降りて、僕の前に立った。
「何も言えんということは、まあ大方その通り、ということなんじゃろうなあ。」
僕はその光景を見て、いっそうびくびくしてしまった。
(この人、足音、してない。)
箱を超えた時も階段を下りた時も、全然足音がしなかった。まるで、雲みたいに体重がないみたい。
「………お化け?」
がつん、っとものすごい強さで頭を殴られた。声も出せずにうずくまる。死ぬほど痛い。
「やっとまともに喋ったと思ったら失礼な奴じゃな。妾は神様じゃ、たわけ。」
「え?」
頭が痛いどころじゃなくなって、僕は顔をあげた。普通に聞いたら嘘にしか聞こえないセリフだけど、すんなり信じてしまった。お化けみたいに足音が聞こえない、っていうのも原因かもしれないけど、格好もあんまり普通じゃないから。肩までのおかっぱ頭に、真っ白な着物を着ている。僕の小学校ではこんな格好の人見たことない。前アニメに出てきた座敷わらしがこんな感じだったなあ、と思ったけど、また殴られそうだから言わない。喋り方も変だし。
「疑わんのか。素直じゃのう、泥棒のくせに。」
すとんと自称・神様が僕に目線を合わせる。ぐっと顔を寄せられて、僕の心臓がまたどきどきいいだした。そうだ、僕、この人にお金取ろうとしてるの見つかったんだった。
「……ふうん。」
眉をきゅっとさせて不思議そうな顔をしながら、すうっと神様は顔を離した。僕はまだびくびくしていた。
「お主、なんで賽銭を盗もうとしたんじゃ。」
僕をじっと見つめたまま神様が言った。僕はその目が見られなくて、下を向いて黙り込んだ。どきどきしっぱなしで居心地が悪い。もう、怒るなら怒って終わりにしてほしい。
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