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「怒ったりせんから、言うてみろ。」
「……え?」
怒らないの?
「怒るかどうかは聞いてから決める。じゃから、ほれ。」
神様がぽんと僕の頭の上に手をのせた。
「大丈夫じゃから、言うてみ。」
神様の目がすっと黄緑色に光った。それを見た途端、ばくばくしていた心臓が収まって、胸のあたりがふわっと軽くなった。なんだか、お母さんに撫でてもらったときに似ていて安心する。僕はそっと口を開いた。
「ゲームが、欲しくて。」
「げーむ?ああ、童共がしょっちゅう欲しい欲しいって願ってきよるやつか。それで?」
「お小遣いだけじゃ、足りなくて。でも、早く買わないと、いけなくて。」
今僕のクラスで流行っているゲームがある。僕の友達はみんなそのゲームを持っていて、いつもその話で盛り上がっていたが、僕はそれを持っていない。でも、みんなと話せないのが嫌で、持っているふりをして話していた。でも昨日、友達の一人が、
「明後日の放課後、みんなで集まって対戦しようぜ!」
と言い出した。もちろんみんな大喜びでその提案に賛成した。でも、僕だけは、心の中でものすごく焦っていた。明後日になったらゲームを持っていないことがバレてしまう。そして、みんなに嘘をついていたことも。そうなったら、みんなになんて言われるんだろう。でもきっと、今までみたいに一緒にはいてくれなくなる、悪口だって言われるかも。
その日、大急ぎで家に帰って貯金箱の中身をぶちまけた。でも、何回数えても、ゲームの値段には足りなかった。そもそも小学5年生のおこずかいで買えるようなものじゃないのだ。
「だから、お金がいっぱいある場所考えて、ここしか思いつかなくて。」
「なるほどのう…。」
神様はちょっと悩むような顔になった。
「お主、父と母にねだってみようとは思わんかったのか?」
僕は首を振った。それはもちろん僕だって考えた。でもそれはできなかった。お父さんはいつもいつも夜遅くまで会社にいてお仕事で忙しい。お母さんは文香のお世話が大変そうで、文香が寝ているときはご飯をつくったり洗濯をしたりしている。そんな二人に、ゲームを買ってほしいなんて言えなかった。
「ふうむ……」
すっと神様が目を伏せる。どうしよう、やっぱり怒ってしまったのかな。だって、ゲームのためだし。またじわじわ不安になってきた。ふっと神様がまた僕を見つめる。
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