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「ユキちゃん、来てくれたんだね。カタルも喜ぶよ。かわいそうなカタルも、良いことあったね」
前会った時より少し、痩せられたような気がする。
「カタルくんの、お母さん……。私、私……ごめんなさい……」
私はこの人に謝ることしかできない。
どうしようもない涙があふれてくる。
「何を謝ってるんだい。ユキちゃんはもっと大変な目に合ってきたでしょう。カタルはそんなユキちゃんを助けることができたんじゃないのかい? 私は立派だったと思っているよ。ユキちゃんは、堂々と生きればいいんだよ」
事情を説明に行った時と変わらない。
カタルくん、どうしてあなたの周りはこんなに優しさで溢れているの?
私に巻き込まれなければ、カタルくんはこんなことにはならなかったというのに。
この人も、全然裏表なく、そう思ってくれていた。
「もう。泣かないの、ユキちゃん」
ポンポンと頭に手をのせて、慰めてくれる。
悲しいのはカタルくんのお母さんだって同じ、いや、それ以上のはずなのに。
消えろと念じた時の確立のために思い切り今までの恨みをぶつけたのに、あの男は生きていた。
だけど、本当にあの男がそれで死んでしまっていたら、きっと私はここに来れてないよね。
やっぱり、カタルくんの奇跡は優しいね。
カタルくんがどこにいってしまったのか、警察も困っている。
だけど、音信不通でまったく手がかりもなく、見つかる気配がないんだもん。
あの状態で治療もされていないとしたら、生存は絶望的だろう、そんな判断になりつつある。
カタルくんのお母さんも、希望を持つより死んでしまったことにした方がもう気が楽だと言っていた。
そう言わせてしまったのはどれだけの思いの上でなんだろう。
だから私は今日、仕方なくこんな場所に、来ている。
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