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01 Prologue
変てこな生き物だと思った。
顔や背の高さは自分とあまり変わらない。けれど、獣と同じ形をした耳や大きな尻尾を生やしていて、くりっとした大きくて丸い瞳は、はしばみ色をしている。
「殿下。これが、シンジュウですよ」
彼が飼い始めた子犬と同じく、首輪をつけられている。「シンジュウと契約をするのです」と言われ、変てこな生き物と一緒に歩かされた。歩いているうちに、足がどんどんと重くなり、動けなくなっていく。ここにいるのが、変てこな生き物だけで良かった。大人がいたら、また大騒ぎだ。
「具合、わるいのですか?」
ちりり、と首輪から繋がっている鎖が音を立てる。変てこな生き物がしゃべった――それに驚いていると、変てこな生き物は彼の隣に座り込んできた。ごそごそと腰に帯びていた小さな袋から緑色のものを取り出すと、ぐい、と彼の口元に押し付けてくる。
「気にしなくていい」
「これ。どうぞ」
ぐいぐい。断っても押し付けられ、根負けした彼は変てこな生き物から草を受け取った。花や果実ですらない、ただの草。それをどうすれば良いのか分からず戸惑っていると、変てこな生き物は犬に似た大きな耳を動かした。
「食べてみてください。にがくないですよ」
そう言って、変てこな生き物は柔らかく微笑んで見せる。別に、苦くたって平気だ。彼の周りにいる大人たちは、身体にいいからと、それこそ毒じゃないかと疑うほどの苦い薬を、彼に飲ませてくる。それらを飲めば飲むほど、彼は具合が悪くなった。
半信半疑のまま、変てこな生き物から受け取った草を思い切って噛んでみると仄かに甘みがある。プチプチとした不思議な食感を、思わず楽しみながら飲み込んでしまうと、ほどなくして彼の身体は軽くなった。
「ふしぎな気もち……」
彼が驚いていると、変てこな生き物はとても嬉しそうに笑った。同じくらいの年頃に見えるのに、笑うと自分よりも、もっと幼く見える。不意に、彼は変てこな生き物に付けられた首輪が気になった。獣と同じ耳や尾があるだけで、変てこな生き物は自分と同じ言葉を使い、笑いもする。その首輪が外せないだろうかと指をさし伸ばすと、変てこな生き物は不思議なものを見るように目を瞬かせた。
「いけません、シンジュウが逃げてしまいます!!」
遠くから、白い服を着た神官が慌てて駆け付けてきた。ぐい、と鎖を神官に引っ張られて、変てこな生き物の顔が苦しげになった。
「……ひどいことを、しないで」
思わず、神官の腕を掴んでいた。虚弱で役立たずの前王の子――そう思って侮っているだろう神官が、驚いた顔をする。
何とか神官の手から変てこな生き物を取り返すと、その手を掴んで歩き出した。
「おまえの、名まえは?」
ようやく神官から離れたところで振り返ると、変てこな生き物はきょとんとしたままだった。それから自分の名前を聞かれたことに気づき、慌て始める。その様子が面白くて――可愛いらしくて、彼は声を出して笑ってしまった。
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