相談

1/1
前へ
/4ページ
次へ

相談

親友が、僕に相談を持ち掛けてきたのは、丁度一週間前だった。 木造アパートの二階の角部屋。 大学卒業後、就職してからずっと暮らしている6畳のワンルームで、麦茶を傾けながら僕らは二人、差し向かいで座っていた。 「せっかくの休日だってのに、こんなトコ来てていいのか。新婚さん」 つい最近結婚式を終えて、妻帯者となった親友に僕はおどけて言った。 僕らの関係の始まりは、子供時代まで遡り、腐れ縁も腐れ縁。 壊死寸前まで腐れてる縁ではあるけど、親友の結婚を機に付き合いも減ると思っていたのだけど、何故か今も昔と同じようにこうしてダラダラと二人で話している。 僕の言葉に親友は少し複雑な表情を浮かべた。 「いいんだよ。今日はおふくろ来てるし、女同士の会話に男は邪魔にしかなんねえし」 「せっかくの新築新居なのに、追い出されてんのか。  逆玉の入り婿は立場が弱いねえ」 「うっせーな。そんなの承知の上でこっちは結婚したんだから、いいんだよ」 「でも、良かったじゃねえか。  おばさんと嫁さん上手くいってるみたいだし」 「……」 女手一つで自分を育ててくれた母親に、楽をさせてやりたい。 常々そう言っていた親友の夢は、ほぼ叶ったようだった。 若いころは、僕も親友もやんちゃをしたこともあったけど、それも昔のこと。 今は二人ともきっちり就職して働いている。 親友は、取引先の会社の常務の娘と先日逆玉結婚。 相手の親の金で、新築の家を建てて、しかも懸念されていた嫁姑問題もなし。 順風満帆と言ってもいいだろう。 なのに、目の前の親友は苦虫をかみつぶしたような顔をしている。 「それがな。おふくろの奴、なんか変なんだよ」 「変?」 「ああ、今日はそのことを相談したくてここに来たんだ。  こんなん相談できるの、お前くらいしかいなくてよ」 眉をへの字に曲げて、親友は言った。 麦茶のコップに浮かんだ水滴が、一しずくテーブルに垂れる。 僕は先を促した。 親友の話はこうだった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加